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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第56話(間が空きました)

 冒頭からつまずきはしたものの、何とか番組の本編の撮影までこぎつけた様子。狭そうで広い新宿二丁目を二人並んで歩くオネエと女装の兄弟。何を言っているのかよくわからないんだが真実は言った通り。

「イサミちゃんだっけ。ここに何しに来たのかしら?」

「ええと…、迷ったらここにきてました」無理がある。

「迷ったって、もしかして東京の子じゃないとか?」

「は、はい。そうなんです。じつは田舎者でして…」

「新宿も初めて、とか?」

「その通りなんですー」

 相変わらずの棒っぷりだが、なんとか話は進んでいる。そのぎこちなさがいかにも田舎者感を醸し出している。合わせるミランダもさすが兄弟といったところ、間の取り方が上手い。

「じゃあ、この街がどんな町か知ってる? 知らないかな、さすがに」

「えーと…、飲み屋街?」当たらずとも遠からず。

「おしい。飲むところは確かに多いけど、俗に言う『ハッテン場』ね」

「あー、なるほど。どおりで男が多いと思った」素が出ちゃって返事をする勲、もといイサミ。

「あら、ご存知?」

「え!? あ、いや。発展した街なんですねー、すごいなー」ハッとして取り繕う。

「そういう意味じゃないわよー。男の人同士がチョメチョメする場所よ」山城○伍さん、あの世で見てますか。

「あ、え!? やだー、そんなところに私迷い込んじゃったの? はずかしー」嘘臭さ満開で顔を覆い照れたふりをする勲、じゃなくてイサミ。

「でもね、おいしいお店はたーくさんあるから、今日はそこに行きましょう。なんといっても私の庭だから、ね?」

 冒頭ですでに自分がどういった人間であるかは説明済みであるミランダ。もちろん知っている勲だが番組の構成上知らぬふりをして合わせている。この兄弟、割と演技派である。ミランダはともかく勲もさすが日常的に女装をしているだけのことはある。

「じゃあちょっと、その先にあるメキシコ料理屋に行きましょう。馴染だから撮影許可は気にしないでねー」カメラに向かって話すミランダ。そのままずいずいと二丁目の街を歩む。

 道すがら、次から次へと声を掛けられるミランダ。全てが知り合いなのか気さくに返事をしては少し会話をしては進み、立ち止まってはまた進む。少しの間カメラは止まっている。その様子を少し後ろから見ている勲は、兄が本当にここの住人なのだということを改めて思い知る。

「兄貴、顔広いな」

「当たり前でしょ。何年選手だと思ってるの?」

「何年?」

「忘れたわ」ツッコミたかったが止めた。

「カメラ回し始めますー。ドローンカメラも合わせて回しますね」

「はーい」

 スタッフの一言で改めてカメラが回り始める。兄弟から他人へとまた戻る。

「さて、そこ曲がったところにあるお店なんだけど…、あったあった」

 少し奥に入ったところ、路地の先に目的の料理屋の看板があり、それを指さすミランダ。

「イサミちゃん、未成年よね?」

「ええ、はい」

「じゃあ残念だけどお酒はお預けね。何か食べてる時間があったらご馳走するから」

「あ、ありがとうございます」

 店の前に到着して、簡単な紹介を撮っているミランダ。そして扉を開き店内へ。

「いらっしゃいませー。あら、ミランダちゃんじゃない。お久しぶりー」

「おひさおげんこー。あの子がここのマスターのエリザベー太郎ちゃん」

「エリザ…」ネーミングセンスに圧倒されるイサミ。

「あら撮影? どうぞ入って入ってー」

「はーい、えんりょなくー」ズカズカ店内に入っていくミランダ。それに押されるかのようにイサミも店内へと歩を進める。

「こちらの席にどーぞ」

 カメラもあるため、少し広めの席に案内される一同。イサミもソファーに腰かけ一息つく。そして店内を見廻す。

(普通の店だよなぁ、店員以外は…、ん?)

 何かに気付いた様子のイサミ。その視線の先には一人の男性が座っている。

「…えええ!?」

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