第54話
日が暮れるのが早い季節。既に外は暗い。未だ準備中の看板のままではあるが、中には客らしい人物が二人。薄明るい店内に女性が二人、間一つ席を開けて座っている。パッと見ればそうなるが、これは兄弟。いや、今は姉妹か。もう作者すら面倒になっているこの兄弟の表現。なんと呼ぶかはもう読者に丸投げする。
勲はヨーコの出してくれたパスタを、出来る限り横にいる存在を気にしないよう気にしないようにと食べている。しかし意識ないいと思えば思うほどに、その横にいる大きな兄は存在感を増す。ミランダ姉さんとイサミちゃん。女装兄弟ここに共演。
「それにしても久しぶりねー。三カ月ぶりくらいかしら。相変わらず忙しそうでうちらの界隈も鼻が高いわ」
「お陰さまでーす。近くに来たから久しぶりに寄っただけなんだけどね。そしたら勲がいるじゃない。なに、佑奈ちゃんたち居なくてももう女装するようになったのね。ねぇヨーコさん、コイツこの店で使えないかしら?」
「ええ、勤めてもらえるなら願ったり叶ったりよ。勲ちゃんがお店に立ってくれるならうちきっと終日満員御礼札止めよ」
「だって。いいバイトになるんじゃない?」
「丁重にお断りいたします…」
口に含んだパスタがまだ含み切れず、垂れ下がった状態のまま答える勲。美味しいはずのパスタの味がわからない。先日から緊張のせいか、どうも味覚障害を併発してらっしゃるようです勲さん。
「この後暇ならちょっとほかの店も行かない? いろいろ紹介してあげるから。なに、悪いようにはしないわよ。後ろがちょっと危険にさらされるだけだから」
「だから、それがいやなんだってば…」
「あげるにしても、陽ちゃんとのデートまではせめて綺麗な体でいてほしいわー」
「え、なに? 僕もうそういう予定なの!?」ヨーコの発言に食いつく勲。知らないところでプランは進行中なのかもしれない。
「で、いくらもらう予定なのよ?」ミランダが勲に問う。
「いくらって…。そういうのじゃないんだけど。ってヨーコさん、お金もらえるんですか?」念のため問い合わせる。
「そういう商売しているお店もあるわよ、ここらへんなら。うちは違うけど。陽ちゃんならいえば払ってくれるだろうけど、勲ちゃん欲しい?」
「そ、そんなお金もらうだなんて…。もらえるんですか?」ヨーコに尋ねる。正直だなお前。
「そうねぇ。相場としては、食事で1万、デートで3万、体までいって5万といったところかしら」
「へー(棒)」
興味があるのかないのか、あったらあったで困るのは本人だけなのでいいのだが。取り巻きは喜び庭駆け回るだけなので。
「勲」
「ん?」
「帰るまでその格好よね?」
「え、まぁ。そのつもりだけど」
「この後ヒマ?」
「え? 特に用事はないけど」
「じゃあちょっと付き合いなさい。安心なさい、別に虎穴に連れて行こうってわけじゃないから」
「???」
急に兄に誘われる勲。怪しいことではなさそうだが、この格好でいいのだろうか。そこに疑問が残る。
「あと10分くらい、そうしたら私戻るからそれについてきなさい」
「別にいいけど。とりあえずヨーコさんの出してくれた食事、食べ終わるまで待って」
「それくらいなら十分待てるわ。あ、ヨーコさん。私にピンドン一本入れてもらっていいかしら。一杯だけ今いただくわ」
「はぁい。ありがとう」
冷蔵庫から一本、ボトルを取り出して持ってくるヨーコ。シャンパングラスと共にミランダの前に置く。
「いただきまーす」
その姿を横目に、最後の一すすりをする勲。口にまだ少し残った状態でおしぼりで口を吹く。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」ヨーコにお礼を伝える勲。
「いいえ、お粗末様でした」
「よし、じゃあ行くわよ。早い方がいいわ」
グラスを空にしたミランダが立ち上がる。さて、どこへ連れていかれるのだろう。




