第52話
「やっと、寝た?」
散々いい目にあった一日が終わり、今もいい目の延長で三人川の字の真ん中で寝ている勲。二人が寝息を立てていることを確認するため耳をすます。既に日を跨いで深夜の一時近く、さすがに目は覚ますまいと、毎度の如くがっしり握られた両腕を、いつの間にか身に着けたすり抜け術で抜け出す。そして目指すは自分のスマホ。
「やっと確認できるよ。なんで自分のスマホなのに…」
実に半日ぶりくらいの邂逅。当然ではあるが手慣れた手つきで自分のスマホの画面を開き、まず確認するのは写真のフォルダ。
「………、何もないね」当然だが怪しい写真は一枚もない。
「当然動画も…」ない。
「んー、二人に何かしちゃったってことはなさそうだけど。何か変なメッセージでも送っちゃってたりして」メッセージアプリを開いて確認する。
「…、これも大丈夫。じゃあなんだ。って、アレ? ヨーコさんから連絡来てる」
佑奈と真白にばかり気を取られており、通知があるにもかかわらずヨーコからのメッセージをスルーしていた勲。とりあえず開いて確認をする。
「…え”?」めっけた。メッセージにはこう書かれている。
ありがとうねー勲ちゃん。陽ちゃんもきっと喜ぶわ
一生に一度しかないだろうことだから、きっといい思い出になるわ
今後私の店での食事は佑奈ちゃん真白ちゃんもフリーパスにしてあげる
あと、この前一緒にいた女の子もいいわよー
じゃあ日取りについてはまた陽ちゃんに確認しておくから、アディオース(はぁと
「なななななな、なんで僕デート承諾しちゃってるの!?」
当然ではあるが、催眠中に行ったため勲にその記憶はない。断ろうと思っていたものをいつの間にか知らないうちにOK。訳が分からず混乱する勲。
「は、まさか二人が勝手に? でもパスワード知らないはずだし…。まさか! 意識失わせて指紋認証とか!?」その推察はいいところだが、その斜め上をいくことをやられているとは気づくまい。
「ヨーコさんにここまで言われちゃったら、さすがに断れないよぉ。どうすんだよ僕…」
腹を決めていたことが一転、覚悟を決めてデートをする羽目になってしまった勲。何度も何度も記憶をたどるが、やはり自分がそのメッセージを送った記憶だけが戻ってこない。「なぜ、どうして」と、自問をずっと繰り返す。スマホとずっとにらめっこをしていると、暗がりの背後に人の気配がする。
「っは!」振り向く勲。そこには暗闇に四つの赤いものが光っている。佑奈と真白の目だ。いつからモノアイになったのか知らないが(モノじゃないけど)、とりあえず今は光っている。
「見ました、ね?」
「見ちゃった、ねぇ…」
目が慣れてきた勲。二人の髪が意志を持っているかのように宙でざわざわ動いている。もうちょっとしたメデューサ。
「ああああ、あの、これは…」
「もう逃げられないんですよ。覚悟を決めてください…」
「ダーリンはもう、デートするしかないんだよ。諦めて後ろの穴を差し出すんだよ…」そこまでする必要があるのか知らんけど。
「ひぃいいいぃいいぃいいぃ!!!」
「さぁ」
「さぁ」
「ひぃいいいい!!!」
「さぁ!」二人揃って。
「ギニヤーーーー!!!!!」Licensed by 藤子不二雄A
闇の中こだまする勲の叫び声。そのまま取り押さえられその後はどうなったのか、当事者三人しか知らない。
(翌朝起きた時、勲は恐怖半分幸せ半分だったらしい)




