目を閉じて 何も見えず哀しくて 目を開ければ荒野に(昴より抜粋)
「ところで」
「はい?」ゲームの途中、不意に佑奈から声を掛けられる勲。
「えい」
佑奈に顔を向けたと思った刹那、突然目の前で手をパンッっと叩かれ、途端に意識を無くす勲。しかし倒れ込むことは無く、頭だけを垂れ座ったまま何か夢遊病のような状態。ゲームのカードは手に持ったまま。
「すげぇ、本当にかかってる」それを見て一言真白が驚く。
「凄いですね、リリィさん。修業したって言ってましたけどここまでとは」
「どれどれ…。おー、つついても起きない」
真白が勲の顔をフニフニ突くが、一向に目を覚ます気配はない。オマケに頬をつねってみたり、瞼をめくってみたり。あまりの面白さにゲラゲラ笑いだす真白だが、その声にも勲は反応することなく、ただ意識をどこかに飛ばしている。
「えっと、この状態の時に一言…。女の子になーれ!」
「パンッ!」と、再度目の前で言葉と同時に手を叩く佑奈。そしてハッと目を覚ます勲。
「う、うん。あれ? 私どうかしてました?」
「なってるー!!!!」驚く佑奈と真白。それをきょとんと見ている勲。
そう、先ほど部屋に上がった際、勲はリリィに催眠術を掛けられていたのだった。例のデートの件が破談になりそうな気配を感じた佑奈が、リリィに相談し打った最終手段。以前イベントで掛けてもらったことを思い出し「なんとかなんねっすか?」と言ってみたところ「協力シマース!」と二つ返事で承諾。今目を覚ました勲の口調は女性そのもの。以前は15分で切れてしまった催眠だが、今回はしっかりかかっている。その仕草は演技という感じは微塵もなく非常に自然、まんま女の子である。
「佑奈さん、真白さん。どうかしましたか?」おどおどしながら尋ねる勲。
「あぁ、これはこれでいい」変なスイッチが入る真白。
「よし、今日はとりあえずこのままでいてもらいましょうか。解けないか確認しないといけませんし」
「だねぇ」
「え、ええと…」たじろぐ勲。というよりは、もう本粋でやっているイサミ。
そして、とりあえず『面白い』というだけの理由で、しばらくその状態でカードゲームに興じ続ける三人。勲もといイサミはその場の雰囲気に何か疑問を感じつつ、カードをめくっている。自分が本来男で「勲」ということは覚えているのだろうか。定かではない。




