第4話
「お待たせー」
両手に料理を抱えて現れるヨーコ。
「わーい!」もろ手を挙げて料理を迎え入れる佑奈と真白。その手にはフォークとナイフ。「漫画かよ」と言うツッコミをしたくて仕方がない勲ツッコミパイセン。
「凄い、バーなのにこんな立派な料理が出てくるなんて…」
「お肉凄いです。こっちのオムライスもプロみたい」
「いつもはこんなの出さないわよ、今日だけ特別」
「ホントすいません、わがままいってしまって。でも本当に凄い」
「あら、アタシ昔はシェフだったのよ。何だミランダったらそのことは言ってなかったのね」
「あ、そうなんですか? どおりで。でもそうなるとなんかお金払わないのも申し訳ない気が」気を遣い始める勲だが、一つ忘れている。今日はミランダの奢り。
「大丈夫だっての。ミランダちゃんからちゃんともらってるから。あの子今やテレビには欠かせない人気者になってるから、お金はあるわよー」
「ああ、そっか。でもそんなに稼いでるんだったら弟に少しは還元してほしいな…」そこそこしてもらってると思うんですけどね、夏休みとか。
「勲ちゃん、一緒に暮らせばいいじゃない。ミランダと」
「いえ、それはお断りします。何か良くないことが起こりそうですし、兄もそれを望んではいないと思います」
「あら、ミランダちゃんたまに言ってるのよ。少しは頼ればいいのにって」
「なんと!」
弟には直接言えない兄としての愛情なのか責任なのか。こんなところで聞くことになろうとは。
「でもいいか。僕も色々あるし…」色々。両隣と色々。勲がヨーコとそんな会話をしている両隣では、あれよあれよという間に皿の上の料理が無くなっている。
「あら、いい食べっぷり。おかわり欲しかったらいってね。すぐ用意するから。希望あったらいってね、材料あれば作ってあげるから」
「はーい!」
「じゃあ僕も、冷めないうちに。いただきます」話に夢中だったため、やっと食事に手を付ける勲。
「はい、召し上がれ」
「……、んまっ」
つい口をついて出てしまう。仮にこれが普通のレストランであればいくら取られるのだろう。そんな素晴らしいレベルの料理を提供してもらっている。
「ごめんなさい、気の利いたこと言えなくて。美味しいです」
「それで十分よー。美味しいものにいちいち講釈入れる必要なんてないって私ま思ってるから。美味しいの一言だけで、ありがと。優しいなんて料理に感情があるわけないじゃないね、あの言葉本当に変よね」
「確かに」三人揃って頷く。
「あの、ちなみにどこでシェフやってたんですか?」料理を突きながら勲が尋ねる。
「帝○ホテルよ」
「はい!?」
「一応料理長やってたわね。サクッとやめちゃったけど」
「何でうちの兄貴といい案定した職をいとも簡単に手放すんだろう…」
「まぁ、それなりにやりがいはあったけどね。こっちの方が圧倒的に面白いし性に合ってるわ。その時の知り合いのお陰でこのお店も持てたしね。感謝感謝よ」
「なんでオネエってこう凄い人が多いんだろう…」全部そういう訳じゃないと思います。たまたまです、たまたま。
「そんなたいしたもんじゃないから。料理がちょっとうまいだけのオネエなんてごまんといるわよ、ごまんと」
「ヨーコさん、弟子にしてください!」ここで佑奈が弟子入り志願。
「あら、お嫁さん修行? いいわよー、何だって教えてあげる」
「やったー!」
真白はミランダ、佑奈はヨーコと、それぞれオネエと深いパイプができる。勲はなんか疎外感ハンパない。佑奈は最初に出された皿を食べ尽し、続いて「生姜焼き!」と希望。何と材料はあるらしく再び厨房へと消えていくヨーコ。当然真白も追加注文。一人ゆっくり食べている勲。
「カラン」と、扉が開かれる音がする。その音に気付いたのは勲。二人は厨房を凝視している。入ってきたのは一人のサラリーマン風の男性。いたって普通のサラリーマンにしか見えない。そして勲と目が合う。
「あら、ようちゃんいらっしゃい」
奥からヨーコが顔だけ出し挨拶をする。その客は案内されるまでもなく三人とは真逆、店の出入り口に一番近い席へと腰掛ける。