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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第40話

「あ、ちょっとトイレいってきますねぇ」

 撮影から1時間ほど経過して、タイミングを見計らいイサミがカメラマンに告げる。しかしそんなの嘘っぱち。イサミを維持できなくなってきた感が自分の中で大きくなってきたためだ。そそくさとカメラマンの前を立ち去る。その空気を察したのか、真白も後を追う。

 2階にもトイレのある造りの建物。主賓と来客で使う場所を分けているということもあり、2階へと撤退するイサミ。トイレは廊下の突き当たり、その手前更衣室となっている部屋へと逃げ込む。

「バタン」部屋の扉が閉まる。「あー、疲れる!」入るなりベッドに倒れこみ大きく一息、そして勲に戻って一言。

「やっぱりね。息詰まって逃げてきたか」後を追ってきた真白も部屋に入ってくる。

「あ、真白さん」ベッドに仰向けのまま真白を見る。

「んー、まあわからんでもない。大きいイベントと違って個撮は視線は確実に集中するからね」倒れこむ勲の横に腰かける真白。

「それなんですよ。自分だけ見られているかと思うと、気が休まる時がありません。イベントなら多くの中に紛れ込めるので、気が楽なんですよ」

「1/5だもんねぇ」

「ええ…」

 ベッドの上で仰向けのまま大きく伸びをする勲。ベッドの横に腰かける真白も肩を回すなど少し体の力を抜いている。すると部屋の扉がまた開き、佑奈とアマネが入ってくる。

「お疲れさまです」

「おつかれー。なんだ伸びてるじゃん町村くん。イサミちゃんか」

「ここならどっちでもいいですよ。下、いいんですか?」ここに4人も集ってしまい、下は志帆一人。少し心配になる。

「うん、今イイチコさんが小休止ってことにしてる」

「どうです、慣れましたか?」佑奈からも同様に質問される。

「全然。いつボロが出るかわかったもんじゃないですよ」

「遠目に見ている分には全然平気そうでしたけどね。やっぱり大変ですか?」

「なんていうか、自分は普通なんだなって思いました」

「というと?」

「うちの兄貴は本気であんなことやってます。あれはもう演技とかそういうものではなく、心の底からああいうものだからなんでしょう。以前も佑奈さんの代わりにやった時、少しは兄貴の気持ちわかるのかなって思ったんですけど、やっぱわからなくて。今回はどうだろうって思ったんですけど…。なかなか真理にはたどり着けませんねぇ」

 なんかちょっと難しめの話をし出した勲。おそらく兄のような本質的に女性になる、例えば性の不一致のことなどを考えていたのだろう。その観点から自分が今女性になるという行為を考え、今度のデートにつなげようとしていたのだろうが、なかなかそう答えは見つからないようだ。おふざけのレベルに留まってしまっている。

「ま、それが正常なんだけどね」

「センスと素質は十分なんですけどねぇ」佑奈が惜しそうに言う。

「でも、自分の姿鏡で見たときは、ちょっとイケるなって思っちゃいましたけどね。いやー僕可愛いなって…」

「うぬぼれんじゃねぇ」3人口を揃えてツッコむ。

「ご、ごめんなさい」

「女の子になり切るよりは、男の娘として割り切った方がもしかしたらいいかもね。そういう趣味アリって評価はついちゃうけど、その方が気楽じゃない? 無理に本物の女性演じる必要ないんだしさ。なんだったらこの後実は男でしたーってカミングアウトしてみる?」アマネが論点を少しずらして考えてみる。

「それだけはご勘弁を…。皆さんの前だけにしてください、この趣味、というか変身は」

「知ってるだろうけど、今男の娘は随分認知されてきてるからねぇ。あんま恥じることもないかもしれないよ。私の知り合いにもいるし」

 アマネはプライベートでも男の娘の知り合いがいるようである。まだ歴史は浅いものの昨今一気に世間に広まってきた男の娘文化。時代がユニセックスを受け入れ始めているいい証拠だろう。

「僕は日常では男ですよ。今回の件終わったらさすがにもうしませんよ」

「もったいない。せめて家の中ではやってくれ」

「そうですよ。せっかく作った衣装がもったいないです」

「佑奈さんちの中だけなら、まぁ」

「アマネちゃんが言うこともありだけど、取り敢えず面倒になりそうだし。この後はとりあえず今まで通りイサミちゃんで通そう。二部の時は考えよう」

「おし、もうちょっとだけ頑張ります。で、一部ってあとどのくらいですか」

「1時間」

「まだ折り返しだったのか…。二時間くらいたったつもりだった」チョー撫で肩になるほど肩を落としている勲。肩に手を添えられ腰に手を当てられ手を引かれ、部屋を後にするイサミ。

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