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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第39話

 ステージチェンジ:志帆イイチコ


 さすがベテラン、勲のような悪態も当然なく撮影はつつがなく進行している。言わずもがなこの場に訪れているカメラマンはすべて知り合い。どんな人間か性格か、ほぼ把握している。どんな対応をすればいいか、言い方は悪いがあしらい方も心得ている。このくらいの度量とスルースキルがなければこの業界で長くやってはいけない。笑顔は絶やさずそれぞれに最もふさわしいと思われる対応を取り続けている今はイイチコ。イサミにも見習えといいたい。

「ありがとうございます。じゃあ次に移る前にちょっと休憩しましょう」

 取り巻きのカメラマンに声をかけ小休止の合図を送る。テーブルに置かれた来客用のペットボトルを手に取る。

「あっち、大丈夫かな」軽く飲み物を口に含みつつ、勲と真白の方に目をやる。

「あ、ありゃダメだ…」

 見た瞬間が、勲が苦虫を噛み潰したような顔をしていたため、苦笑いするしかない志帆。どこで誰に見られているかわからない。完成にはまだまだ程遠い。

「にしても、パッと見は相変わらずの出来だよな。ねぇ」連れのカメラマンに声をかける。

「あのさ、イサミちゃん。どう?」ガラス越しにイサミを指をさして尋ねる。

「どう、と言うと?」

「女の子として」

「あぁ。前のイベントで撮影した画像見たときも、普通の女の子のレイヤーと比べて遜色ない出来だったな。むしろ彼のが出来がいいくらい。もし仮にROMとかにする場合も、加工もほとんど必要ないし、すごいと思うよ自分は」もうなっていることを当然彼は知らない。

「だよねぇ。あんたがそういうなら間違いないワナ」

「フォトショップのお世話になる必要のない稀有な存在、とでも言えばいいかな」

 連れの百戦錬磨のカメラマンに言わせてもそう評される勲の女装術。ベースの性能の良さと、佑奈と真白のコスプレ技術が相まっての代物。画像だけならもうどこに出しても恥ずかしくない出来とのお墨付きを、本人の知らないところでもらっている。

「後は形振りか。あ、プールに突き落とされそうになってる」

 カメラマンが目を離した隙に、真白がなぜか勲をプールに突き落とそうと、頭を押さえつけている光景が目に飛び込んでくる。

「なにしとんじゃあいつら」

「さぁ…」

「しかし似合う。ねぇ、佑奈ちゃんが二人と合流したら絶対に抑えておいてよ。今のところこれ以上に美しい防空三姉妹を、私は見たことがない」

「無論」言葉少なに返事をするお連れさん。

「一人が男ってのは、真実を知らなければ幸せなことなんだろうけどな~…」

「見ぬが仏、聞かぬが花とはこのことか…」

 並んでそれを見ているお連れさんも何か悟っちゃった感がにじみ出ている。

「うちに欲しいなぁ」

「店?」

「いや、サークル」

「女性としてか?」

「いや、男として欲しい」

「たしかに。あのレベルの男性レイヤーそういないからな」

「あ、プール飛び越えた」

 落とされかけたではなくもう落とされた勲。全力で今いるサイドから反対サイドへとフワリ飛び越える。拍手喝采、なにやってんだ。

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