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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第38話

「あ”?」

 可愛いツラしたコスプレイヤーから、野太いと表するまでではないが、低めの声が発せられ部屋に響く。

「い、いえ。何でもありません…」

 勲、ではなくイサミが早速カメラマンに反旗を翻すというか抵抗するというか悪態をついている。声だけで大の大人が怖気づくほどのトーン。どんだけ嫌なこと要求されたのだろう、以前のイベントが蘇ってくるようである。と同時に真白に足をおもいっきりサイレント踏んずけられる。

「っ!! あ、ごめんなさい。なんでもないでーす。こうですか?」

 と同時に、素からイサミに戻り、カメラマンご要望のポーズを取る。この対応だけ見ていると、本当に育ちが良く高学歴なのか怪しくなる。

「自嘲しろっつってんだろ」耳元でイサミにボソリとつぶやく真白。

「ご、ごめんなさーい」こちらも小声で返すイサミ。

 勲は何となくではあるが感じていた。こういった人種、コスプレを撮るだけのカメラマンに対するある種の嫌悪感の正体。以前イベントに行った際も「撮らせてくれ撮らせてくれ」の嵐で、自身から「Take」するばかりで「Give」がない。まぁ多少なりともコスプレイヤーも恩恵を受けているのかもしれないが、それを勲は感じ取ることができなかった。己の性欲なのかなんなのかまではわからないが、欲求を満たすために見境がなくなる。そんな人種が嫌で仕方がないのが勲。もともと人に対して何かしてあげることが多いキャラの勲からすると、対極に位置しているのだろう。好きになれといってもどだい無理な話。悪態つくのも頷ける。

 背中をカメラマンに見せているときの形相と来たら、また横にいる真白からわき腹をサイレント地獄突きされている。「ツラ」と一言添えられている。

「ど、どうにも慣れなくて…」


 開始数分、すでにかなり神経をすり減らしている勲。横では佑奈とアマネが愛想を振りまいて撮影をされている。佑奈だって「蚊ト○ボが」と裏では言っているにもかかわらず、この場では一切そんな表情は見せない。「あれがプロか」と勲が尊敬のまなざしで見ている。

「すいません、メモリー入れ替えましたのでまたお願いします」

「はーい」

 くるりと振り返り満面の笑みであいさつするイサミ。

「じゃあ、次そこのプールサイドでいいですか?」

「なんで?」また本音ががが。

「あ、いや。なんとなく別シチュエーションが欲しいかなって」

「あー、なるほど。水に落としちゃダメですからねー」

 何とか義理切り抜けた。横におわす真白もギリセーフの判定をしている。

 外ではないが、半屋外の中庭のような場所に通じる扉を開くカメラマン。それに続くイサミと真白。25メートルなんて到底ないが、10メートル弱程度のプールのようなもののサイドを歩く。

「へー、面白い」

「あれ、こういうの初めてですか?」カメラマンからイサミに質問が飛ぶ。

「え、ええ。個人撮影?っていうんですか。こういうの初めてなので」

「そうでしたか。さすがイイチコさん、きれいなお知り合いばかりだ。よかったらまた撮らせてくださいね」

「ことw(ry はい、ぜひー」耐えた。

「じゃあこのあたりで。よかったら二人の絡みが見たいんですけど」

「え?」

「はい、いいですよー」というと同時に真白がイサミに体を寄せてくる。顔もほぼくっついた状態になる。

「ありがとうございます。じゃあ何枚か」

「…」何も答えないイサミ。

「どした?」小声で勲に問いかける真白。

「照れます」

「女同士なんだ。照れてどうする」

「んなこといっても。形はこうでも心は男ですよ」

 プールを挟んで撮影しているため、その二人の会話はカメラマンの耳には届いていない。口が動いているのはファインダー越しに確認できるかもしれないが、読唇術持ちでもない限り、その会話は特定できないだろう。

「いつもチューしたりしてるじゃん。何をいまさら」

「慣れませんよ、あれだってなかなか」

「ウブだなぁ」

 もう両手で数えられないくらい真白とも佑奈ともキスもしているだろうに、まだ慣れないとは。「童貞を殺す○○」とかであっさり殺せそうな勲。

「じゃあ男となら平気?」

「それはそれでイヤです」

「はぁ、もう」呆れる真白。

「にしても…」

「なに?」

「真白さん、いい匂い」

「プール付き落とすぞ」

 マジで落とされかけた。

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