第3話
「あ、あの貴方がヨーコさんですか?」恐る恐る尋ねる勲。
「ええそうよ。初めましてヨーコです」本人だったようだ。見るところ兄よりちょっと年上、いって三十代後半程度の男性。ただし、醸し出す雰囲気と口調から、確実にそっちの人と判断できる。間違いなく兄と同じ人種。勲は確信する。
「あ、よかった。初めまして、ミランダ…ってか、町村でも通じるのかな。どうなんだろ…」
この街で兄がどの名で活動しているかよく知らない勲。取り敢えず両方出しておく。
「どっちも知ってるけど、この街では本名は言わないでいいわよ。ミランダで通してあげて」ヨーコからやさし~く釘を刺される勲。
「は、はい。じゃあミランダの紹介できました。僕が弟の勲です」
「私、沖波佑奈と申します」軽く会釈して挨拶する。
「真白でーす」手を挙げ元気よく。子供たち見習おう。
「はい、いらっしゃい。ミランダがいつもお世話になっています」
「こちらこそ、兄がお世話になっております。ってか、ご迷惑おかけしております…かな」深々と頭を下げる勲。
「迷惑だなんて。ミランダちゃん来てからホントこの街が一層楽しくなったし、いい街になったのよ。こちらこそお礼しなくっちゃ」ヨーコも勲に対して深々と頭を下げる。それほど彼、ではなく彼女がこの街にとって重要な人物であるという証か。
「え、兄が何かしたんですか?」
「それはおいおい。さぁ座って、待ってたんだから。なかなか来ないわねーって思って奥引っ込んじゃってたわよ」ヨーコに促されかんたーの席に腰掛ける三人。
「ごめんなさい、ちょっと迷っちゃって」
「あら、まぁでもこの店所見の人にはわかりづらいわよね」
「ストリートさんに映らなかったからわからなかったんです」
「あら、そうだったの。じゃあ今度グーグルに言っとくわ」
「どういう繋がりあるの!?」勲の無言のツッコミがヨーコに炸裂する。
「さて、まだ未成年よね。お茶とジュースどっちがいいかしら?」
「僕お茶で大丈夫です」
「ピンドン」真白さん、どこで覚えたんですか。
「ダメよー、二十歳になってからね」優しく諭される。
「冗談です、私もお茶で大丈夫です」
「私も一緒で」
「はい、ちょっとまってね」裏の冷蔵庫からウーロン茶のペットボトルを取り出しグラスに注ぐヨーコ。それを三人に差し出す。
「さて、じゃあ今日はご馳走してお話しするって聞いてるけど。今から作るけど、何か食べれないものある?」
「ないでーす」佑奈と真白、二人元気に「応!」と答える。
「多分この二人は有機物なら何でも大丈夫かと…」両サイドから脇にいい塩梅の腹パンがお見舞いされる。
「はい、じゃあお任せあれ~」そう言い残し裏、といってもカウンターから目の届くところにあるキッチンへと向かうヨーコ。何が出てくるかは出てきてからのお愉しみ。とりあえずお茶を飲みつつ談笑する三人。
「良さそうな人ですね。僕どんな人が出てくるか内心心配で」
「この街にそんな人はいないんじゃないかな、オネエってみんな面白くていい人ってイメージがある」
「あんまり悪いイメージは無いですね」先に出されたお通しのチーズをあっという間に空にした佑奈。皿を振っても出てきません。
「にしても、面白い街ですね。ちょっと歩いただけでこんなに違う空間があるなんて。歩いてる人の雰囲気も違うし、街の作りも全然違う。同じ東京なのかって」
「ここは特別なのかな。まだよくわかんないけど」
「色々聞きましょう。そのために来たんですし、おすし」
「あ、でも居座っちゃっていいんですか?」奥にいるヨーコに勲が問いかける。聞こえているだろうか。
「気にしなくていいわよ。普通にお店は開けてるけど、お客さんが来るのはみんなが帰ったくらいの時間からが本番だから」聞こえていたらしくちゃんと質問に答えてくれる。
「それもそうか、夜の街だもんな」
7時台に入って少し経つ。この街の夜はこれから。次に三人が外に出る時の景色は来た時と相当違うことをまだ知らない。入れ違いくらいでこの街はギラつき出す。ミランダみたいなので溢れかえってくる。
「ヨーコさーん、お店の中の写真撮ってもいいですか?」真白がヨーコにお願いする。
「いいわよ。後で私も綺麗にしたら入るから」
「わーい」
「趣味になってません、オネエと遊ぶの?」
「うん、なんか非常に楽しい」真顔で答える真白。
「さて、そろそろですね」
「よっしゃ、バッチこい」
両手にナイフとフォークを立てて携え、料理という名の獲物が来るのを待っている佑奈と真白。いつからこんな飯キャラになったんだろう。半年近くになる付き合いを思い返している勲。旅行…、かな?