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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第37話

「じゃあ、時間になったらまた来ますので。一旦失礼しまーす」 

「はーい、準備よろしくねー」 

 開始時間までまで少し時間がある。来客のカメラマンとの挨拶を終え、志帆に見送られ一旦二階に戻る志帆を除く4人。既に着替えが終わっているので、同じ部屋に入り扉を閉める。

「っぷは! 視線が集中する、緊張する!」息でも止めていたのか、大きく息を吐く勲。

「見られる人5人だけですからねー。そりゃそうですよ」

「しかし、全然バレてないね。相変わらず女装ステルスとでもいえばいいのか、凄いね」

 アマネも勲のその成り切りっぷりに驚く。メイド喫茶で一度見ているもの改めて感心する。

「どうだい、うちのイサミちゃんは」

「金になるよね、これなら」

「すでになってるんですけどね…」

 ROMをばらまかれていることまでは知らないアマネ。しかしそれをいちいち伝えることはしない勲。あんな負の遺産、記憶もろともなくなってしまえと日々願う。

「さて、もうちょっと時間あるからゆっくりしようか」

「そうですね。よっこらせ」椅子に腰かける勲。

「こら、そういうところだぞ。女の子っぽくしなさい」真白から注意される。

「今はいいじゃないですか、プライベートな空間ですし」

「甘い、甘すぎる!! 会場内はどこで見られているかわからないのだ。一瞬たりとも気を抜いてはいけない!」

「そういうもんなんですね…」

「一仕草一仕草、本来の自分を殺して演じ切る。コスプレイヤーとしてまず最低の心構え。わかってんのかお前ー!」

 真白が熱く熱く心構えを熱弁する。ただ気圧されて聞いている勲。そもそもコスプレイヤーになった覚えはないんだが、といいたくても言えず。

「僕、普通の大学生ですよ?」

「女装コスしている人が言うことじゃないですねぇ」佑奈のおっしゃる通り。

「頭がいい人ほど変態多いっていうけど、やっぱ東大って変態多いの?」

「変わり者は多いと思いますよ、実際。ただこういう変態は少ないでしょうけど」

「自分のこと変態って認めたね」

「あ、いえ。そういう意味じゃ…」

 アマネの質問に誘導尋問のように答えてしまう勲。自分が東大生の中でも稀有な存在であることを認めてしまったようなもの。心理戦は本来得意のはずの勲だが、いざこのような場所になると借りてきた猫というのは変な言い方だが、その饒舌さが影を潜める。

「変態でも彼女はできるんだから、心配すんなって」

「幸せですよ。そういう趣味許容してくれる存在は」もう自身の趣味扱いらしい。

「僕の意思でやってるわけじゃないんですけど…」

「話が逸れた。とにかく、男とわかる話し方とか仕草とか禁止ね」

「へい」

「それもダメ」

「はぁい」ちょっと可愛く返事をする勲。ではなくイサミ。

「よろしい」

「あ、でも一人称どうしようかなぁ?」

「そこは『ボク』でいいんじゃない? ボクっ娘萌えるし」アマネから提案される。

「それいいですね。じゃあ一人称はボクでお願いします、イサミちゃん♪」

「はぁい(難しい…)」

 勲に戻れるのは数時間後。しばらくは公も私もなくイサミでいることになる勲。余計なことを口にしなければいいだけ。そもそもカメラマンとベラベラ喋るようなことはそうないだろうと考えている。写真を撮ることが目的なわけだからそれでいいだろうと考えている。しかし世の中そんな甘くない。

「ただ、写真撮られていればいいのかな?」

「甘い」相当甘いらしい。

「彼らは写真を撮ることもそうですが、レイヤーとお近付きになることが目的の半分以上です。見ましたか、あの彼女がいない=年齢みたいな人々を」

「佑奈さん、ガッツリ言っちゃいますね…」

「撮るだけにとどまらず、コミュニケーションをとることがこの撮影会での彼らの本題といっても過言ではないです。それに耐えて我々はコスプレをしているんです」

「そう。社交辞令というのか、表の顔というのか。仕事に通ずるよね、コスプレって」

「うん、まったく。嫌なことに耐えてこそ得られる何かがある」

「辞めればいいじゃないですか…、もう」

「だってコスプレ楽しいんだもん!」三人口を揃えてイサミに反論。

「ご、ごめんなさい」

「今回の件終わったら、普通の男のコスプレさせてあげるから。そうすれば楽しさわかるかも」真白に肩を叩かれる。

「まだやるんだ」

「イケメン日照りの業界だから、すぐに人気者だよ、君なら」もう片方の肩を叩くアマネ。

「ええ、町村さんなら立派に勤めあげられます」佑奈は頭に手を。

「あの、僕のこと男として扱ってません?」

「は、しまった!」

 三人がハッと気づく。コントのようである。なんだかブレブレの部屋の中。後10分ほどで撮影は開始されるのだが、大丈夫だろうか。

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