第35話
「ウィッグって、誰のですか?」無関係と思っているのだろう。サラッと二人に聞く勲。
「Youの」勲を見て答える二人。
「はー、Meのですか………」しばしの沈黙。
「それじゃコスプレできなくないですか!?」やっと気づいた。
「まじーまじー。これじゃできないじゃん」
「しまった。いつもと髪型違うから、すっかり忘れていた。迂闊でした…」
「じゃあ僕、今日着替えなくて平気?」一縷の望みが出てきたため、顔色が明るくなる勲。
「それは許さん」それはダメらしい。顔色も元通り。
「ちょっと姉さんに余分にウィッグないか聞いてくるね」
「はい」
「いや、その。無理しなくてもー…」勲の制止なんか聞く耳持たず。
「大丈夫です。何とか着せてみせます」変な情熱だけは天下一品。佑奈がこの苦境を乗り切ろうと考えている。
「……あざっす」
程なくして真白が隣から戻ってくる。しかしその手には何もない。
「ダメだった―。二人とも予備はないって。そもそも今日ほとんど被らないのばっかりらしいから」
「そうでしたか。どうしましょうか…」
「ほら、だからね。あの、やらないという選択肢もあるわけで」
「取り敢えず着替えてください」
「…はい」
言いなり。鼻水垂らしながら答える勲。ここに来た段階で逃げ場はないようである。渋々服を脱ぎ始め渡された衣装を袖に通し始める。
「あぁ、違います。まずこっちです」
「ん、なにこれ?」手渡されたのは黒い生地の服。飾り気がなく衣装には見えない。
「なんです、これ?」
「インナーです。それ着てから上にそっちの衣装を着てください」
「インナー…」
広げて全体を見る勲。するとそれは全身タイツのように首からつま先までをすっぽり覆うような形状の服だった。目玉が飛び出そうになる。
「ちょ、これ」
「あぁ、そっか。流石に恥ずかしいよね。一旦外出てるねー」
「このイラスト参考に着てみてください。多分大丈夫です」
勲の焦りも何のその。佑奈と真白はそそくさと部屋を後にし、勲が着替えるための時間を与える。あられもない、訳ではないがパン一いち見られるのは流石に恥ずかしかろうと、彼女たちなりの心遣い?
「えぇー…」取り残される変態。諦めて着替えを始める。
「…、これ胸パッドか」乳は多少なりともあるキャラらしい。
…10分ほど後
「終わりましたよー」
部屋の中から勲の声が聞こえる。しかし、下の部屋で道中購入した朝食のおにぎりやら何やらをほおばっている佑奈と真白。その声は届いていない。
「あのー」虚しく廊下に響く勲の声。
「もしもーし」無駄だっての。
「終わりましたよー」
ドアを開けて叫ぶ勲。流石に気付いたらしく下から戻ってくる二人。
「どれどれ。お、ぴったりじゃん」
「おー、素晴らしい。さすがはメグルさんとリリィさん。それと私の選球眼。町村さんのスリーサイズピッタリでした」
身に着けた衣装は、一切の無駄がなく完璧なまでに勲のボディラインに沿っている。オーダーメイド恐るべし。
「何で僕の体のサイズわかったんですか?」
「抱かれた時ですね、以前。感覚でわかりました」
※読者のご想像にお任せします
「ちょ」火が出るほど真っ赤になる勲。
「うーん、ねぇ佑奈」
「うん?」
「これならウィッグ無しでも、化粧だけでなんとかいけない?」
「んなムチャな」ツッコんだのは勲。
「いけそうだよね。でもちょっとだけ長さ足せれば完璧なんだけど。町村さんちょっと髪伸びてるから部分的に足すだけで」
「エクステとかないかな。聞いてこよう」
別の武器を探しに、また隣の部屋へ向かう真白。そして今度戻ってきたときには、手に何か新兵器が握られていた。
「あったー!」
「おぉー、かんぺきー!」
握られていたものは、ウィッグほど量はないが、何か髪の毛のようなもの。聞くとそれは『エクステ』と呼ばれる、部分的なヅラのようなものらしい。
「サイドにこれ付けて…。よし、できた」
「髪型はこれでほぼ完璧かな。後は化粧だ化粧」
「はい。じゃあ町村さん、ここに座ってください」
ベッドに腰掛け、二人にされるがまま化粧をされる勲。そして数分後、それも終わる。「じゃあ後はこれを頭に巻いて…。完成です」と、頭に鉢巻のようなものを巻かれて完成。真白が目の前に鏡を持ち出し、出来を確認させる。恐る恐る自分の姿を目にする勲。
「…うわ」
それは、以前にも増して完成度の上がったコスプレ男の娘の姿があった。勲も目の前に写っているのが、本当に自分なのか疑わしいくらいの完成度であった。
「キレイ…」




