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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第33話

 翌朝、電車で裕奈邸を目指す勲。帰りは志帆の同行カメラマンが送ってくれるとのことなので、少し早起きして電車に揺られている。

「ふぁ、ねみ」

 昨晩、「男の娘とはなんぞや?」という、哲学的な疑問にぶち当たり、遅くまでネットサーフィンして調べていた。そのため多少寝不足気味の勲。心地よい電車の揺れが眠気を誘う。

 眠気に耐え、裕奈邸に到着。既に真白はいる、というか泊まってたのでいて当然。勲の顔を見るなり「何目にクマ作っとんじゃボケー!」と、朝から威勢のいいアッパーが飛んでくる。化粧をする手間がかかるからとの理由で殴られる勲。

「イイチ…、慣れないな。志帆さんは?」

「もう5分くらいで着くらしいです」

「はいー」

「で、なんでそんなにクマ作ってんの?」先に理由を聞いてくれればいいものを。殴られてから真白に問われる。

「ちょっと調べ物を…」

「調べ物?」

「男の娘について少々」

「ほう、それは殊勝な心掛けで」真白からお褒め頂く。

「で、何見たん?」

「ジェイ○ッカーとかいうアニメです。男の娘が出ていたもんで」

「あぁ、勇太くんか。あれはいいものだ」

「知ってるんですね」

「男の娘業界で勇太くん知らないなんて、モグリですよ、モグリ」佑奈も知ってて当然といわんばかり。そもそもその業界は何なのだろう。

「アニメと現実じゃ比べようもないんですけどねぇ。いくらでも誤魔化せますし」

「大丈夫。君は騙せている」

「はい、心配すること無いです」両サイドから肩を叩かれる勲。喜んでいいやら悪いやら。

「あ、着いたみたいですよ。じゃあいきましょうか」

 志帆とお連れがマンションに着いたらしく、部屋を後にする三人。カギを掛け外に向かう。エントランスにつくと志帆が待っており車へ案内される。

「おはよーございますー。よろしくおねがいしまーす」

 車の中で待っていた、連れのカメラマンにご挨拶。以前会場で一度会って入るもののほとんど面識はない。ちょっと他人行儀。そしてもう一人、後部座席にいる人物。

「はよー。ゆきち久しぶりー」

「オー、アマネちゃん。久しぶり」再会を喜ぶ元同僚。

「そして、よしこちゃん。おはよう」ニヤニヤしながら勲に挨拶するアマネ。

「ど、ども…」その名前はやめてくれといわんばかりの顔。

「よしこ?」佑奈が不思議そうな顔で勲を見る。

「あぁ、そういえば佑奈さんは知らないですもんね」

「源氏名ですか? いつのまに働いてたんですか。にしてもセンスないですね」

「源氏…。当らずとも遠からずです」

「じゃあよしこ、先に後ろに乗るんだ」笑いをかみ殺している真白に促される。

「やめてください…」

 蘇らせたくない記憶が鮮明に蘇る蘇る。巽の記憶は消せたが自分の記憶とネット上の評判、写真は消えない。

「あ、こちら私の友達で佑奈ね。多分お店で見たことあるかな」

「初めましてー。真白がお世話になってました」

「初めまして。はー、たしかに似てる」

 真白から佑奈と勲がクリソツであることは聞いていたアマネ。イベント勤務時の勲を思い出し見比べている。

「町村君、ホント付いてる?」ジト目で勲を見る。

「付いてますよ…」何故か手で前を隠す勲。

「確かめる?」真白ががが。

「やめてください」内股になる勲。

「やめとく」アマネもさすがにお断り。

「今日、私も着ますから、その時にでも見比べてみてください」

「え、町村君女装するの?」事情を聞いていなかったアマネ、耳を疑う。

「うん、今日の本題それだから」

「町村君、本物だったんだ…」

「違いますってば」

 何を言っても一度やっているところを見られている人間には、その否定は全く説得力がない。

「じゃあ、そろそろ出発しますね」

 運転手のカメラマンから一言。掛かったままのエンジン、ギヤが入り車が佑奈のマンションから出発する。勲の弁解と男の娘話は車の中でも続く。佑奈と真白は一つ大きな忘れ物を部屋にしていることにも気づかずに。

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