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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第25話

 時間が経つにつれ、といってもまだ30分も経過していない。勲の目がなんか変になっている。それに上の三人も気付く。

「おい、あれ」まずは真白。

「あ、ヤバいですね」佑奈も。

「ん、どうかした?」覗き込む志帆。

 そう、危惧していたことが早々と発生した。酔いだしたのだ。アルコール度0%、なぜ酔えるのか。受け身だった勲が徐々に積極的になり、ではないがの量も増え、発言も増えだす。割りと静かに進行していた二人の時間が騒がしくなる。

「一人にフラれたくらいでくよくよしちゃダメですって。世界の半分は男なんですから、まだいい出会いありますってー」

「そうですよね、えぇ…」

「ですってー。僕とは今日限りかもしれませんけど、いい男いっぱいいますよ。あ、僕の兄もオネエなんですけどね」

「そうなんですか。それはまた…」

 完全に形勢逆転。受け身になっているのは中村の側だった。始めのうちはヨーコについでもらっていた酒だったが、勲が「貸して」と言い出し、いつの間にか中村の毎ボトルを強奪。飲めや飲めやと、空いた先から中村のグラスに酒を注いでいる。たちの悪いホステスにしか見えない。

「二十歳になっても、アイツに絶対酒飲まさないようにしようね」

「ええ、死んでも飲ませません」

「…」

「中村さんの職場品川シーサイドなんですか? 凄いですねー、僕よくわからないですけど」

 絡み酒ここに極まれり。『奢り』ということは頭のどこかに残っているらしく、勲も次から次へとノンアルを要求する。ヨーコは楽しそうに見ているだけ。中村さん、恋も冷めるんじゃなかろうか。大笑いしながら中村の肩をバンバン叩く勲。何がそんなにおかしいのか、笑い上戸もくっついてきた。


 10時ちょい前、貸切制限時間ちょっと前。


「おえ…」

 机に突っ伏している勲。横では心配そうに勲を見守る中村の姿、カウンター越しにはヨーコの姿があった。上では三人とも座った目で呆れ果ててモニターを見ていた。

「あの、大丈夫ですか?」勲を開放する中村。

「ういsdhjなsぢgだはどぎゃsdbhf」言葉になっていない。

「すいません。無理に飲ませてしまったみたいで」

 飲ませたのは中村ではないのに、そうなってしまった勲に詫びている。なんて出来た人だろうか。そりゃそこそこいい会社の地位のある人にもなれるわけだ。

「マスター。彼これで帰れますかね?」

「ええ、大丈夫よ。いざとなったらタクシーにぶち込むから」

「そうですか。あ、だったらタクシー代もお渡ししておきますね」

 財布から今日の貸し切り料金と勲のタクシー代まで払う中村。それを遠い意識の中目にしていた勲が体を起こす。

「あ、そこまでしてもらわなくても。大丈夫、です…」

「無理をなさらないでください。無理をいってしまったのはこっちですから」

「あ、はい…」

「どうせワシらが運ぶことになるんだろう」と上で二人が。

「じゃあ、町村さん。それとマスター。今日は本当にありがとうございました」

 代金を払い終えた中村は、礼を言って店を後にしようとする。掛けてあるコートを手に取り、横に置いたカバンを持ち。

「あ、中村さん。今日はどうもでした」

 大したこともしていない。ただ絡んだだけ。最後の礼儀といわんばかりに勲が握手しようと手を差し出す。

「はい。いい夢が見れました」

 その手を握り返す中村。その時勲が見た中村の表情は、何か物足りなさを感じているような、そんな風であった。自分がこんなになってはそりゃそうか。心の中で詫びる。

 握手を終え、中村が店を出ようとする。「終わったか」と上の三人はちょっとトイレに行きたいので早く下に降りたい状況だった。外に出次第勲の元へ参上予定。だったが…

「あの、すいません!」店を出かけた中村が、急に振り返って勲に改めて声を掛ける。

「あ、はい?」

「あの、最後のお願いです。一日、いや数時間だけで構いません。僕とその恰好でデートしてもらえませんか!?」

「はい!?」

 先に声を上げたのは上の三人だった。居ても立っても居られず階段から身を乗り出してその衝撃の告白を肉眼で見ていた。

「あ、みんななんで? え? デート!?」

 どっちに驚けばいいのか、勲の視線は上に下にと忙しい。

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