第21話
金曜日、運命の日。
大学が終わりそのまま佑奈の家へと向かう勲。既に佑奈も帰宅し真白も来ているとのことで急いで向かう。電車を乗り継ぎ夕方5時前に到着する。本日は都心郊外都心と世話しなく、東京の中を散々行ったり来たりすることになる。
「こんにちはー」
「いらっしゃい。真白も待ってますよ」
佑奈に迎えられリビングに通される。そこで待っている真白。そして開口一番
「で、何着てくの?」
「え?」
「男の娘の格好していくんですよね、町村さん」
「なぜ?」
「ほら当った」
「思慮が浅いですねぇ…」
来た途端に質問され、そして呆れられて何事かと焦る勲。
「そこに入ってるブツ、出してみぃ」
「なぜわかるんですか!!??」
持参した服のことまでバレている。更に焦っていると、リビングのテーブルにはウィッグやら化粧道具やらと、男の娘変装用ツールが一式揃っている。まるで自分の頭の中を見られているかのような錯覚に陥る。偏差値だけだったら僕の方がいいのに! なんて思っているけど、この手の洞察力と世渡りは圧倒的にこの二人が巧者。取り敢えず言われるがまま持参した衣装を取り出し二人に手渡す。
「あー、なるほど。初心者が選びそうだわ」
「ですねぇ。中二病こじらせた男の人が彼女に着せたがりそうなデザインしてますね」
グッサグサと棘、槍、ゲルゲの吹き矢が心に突き刺さる。直感で選んだものを二人に散々けなされる。本番前からライフはもう半分以上減っている。
「な、なんでわかったんですか?」
「何か月町村さんイジってきたと思ってるんですか? 考えることなんかすぐわかりますよ」
「それはそれで嬉しいような悲しいような…」
「まぁいいです。時間もないですから着替えてきてください。仕上げはこっちでやりますから」
「あ、ありがとうございます」
服を改めて受け取り、隣の部屋にいく勲。リビングの扉が閉まったと同時くらいに、佑奈と真白の目が光る。夜行性の獣にカメラのフラッシュ当てた時のように。
「お、お待たせしました」
着替えを済ませ戻ってくる勲。実に数か月ぶり?の男の娘スタイル。二人も久しぶりに見たため一瞬見入る。
「あー、やっぱ似合うなぁ」
「似合いますねー。でも背が伸びちゃったので少しだけ前より違和感ありますね。でもモデルみたい」
前述の通り勲は背が伸びた。160台後半ともなれば、女性では背が高い方に入ってしまう。それでいてこの中二病ワンピース。街の視線が集まりそうで怖い怖い。
「さ、座ってください。時間もないんですから」
「は、はい」
「真白、ウィッグどれにしようか?」
「いつものじゃ面白くないよね。これにしない?」
真白が手に取ったものはショートボブのウィッグ。以前勲がユウナになった時につけたものとは異なり、ボーイッシュな感じのもの。本当にこれが秋葉原を歩いていたらオタク殺しといわれてもおかしくないような格好になりそうである。
「そうだね。じゃあ…」
-省略-
「はい、できました」
佑奈の完了の合図と同時に、アシスタントの真白が鏡を勲の前に盛ってくる。
「おぉ。こりゃまた前とは違った美しさ…」
「自分で美しいとか言っちゃうかね、ダーリン」
「こりゃお恥ずかしい…」
「ロングよりこっちの方が似合うかもしれませんね。顔立ちとのバランスいいですし」
「じゃあこれから撮る時はこっちかな」
「撮る?」
「気にしないでください」気になるっての。
「じゃあ、お手数かけました。それじゃあ僕行ってきます!」
「くれぐれも貞操は守るんだぞ」
「捧げませんって」
「じゃあ、お気を付けてー」
素直に見送る二人。その行為に若干の違和感を感じる勲。いつもなら付いてくるというだろうに、なぜ今日は。まぁいい、8時にはまだ時間があるものの少し早めに着いておきたい。玄関で二人と別れて駅へと向かう。そして玄関の扉が閉まる…。
二人の目がビームが出そうなくらい光る!
「真白、準備いいですか?」
「応!」
やっぱり問屋はそう簡単に卸さない。




