第20話
買ってきた衣裳をクローゼットに片づけ、座椅子に腰掛ける。スマホをカバンから取り出し連絡先を漁る。そして一人の電話番号をコールする。
「……もしもし。勲ちゃん?」
「はい、勲です。こんばんは」相手はヨーコだった。
「こんばんわ。どうしたの、もしかして例の件?」
「はい。そうなんですけど、今お時間大丈夫ですか?」
「ええ、月曜日はお店お休みだから大丈夫よ。で、決めたの?」
「はい、決めました。一度だけでいいならお会いします」例の申し出を受けることをヨーコに伝える。
「あら、本当。陽ちゃん喜ぶわ。一度だけでも話せるならきっと満足するでしょうから。そもそもそういうお店もあるのよ。男の子指名して一緒に飲むっていう。まぁお店の寄ってはその後もアリってところもあるけどね」
「その後は流石にちょっと…」貞操だけはあくまでも捧げない予定。
「大丈夫よ。私たちみたいなのは一期一会でそれを大切にするタイプも多いから」
「そうですか。よかった。じゃあ今度の金曜日、この前と同じくらいの時間でいいですか?」
「ええ、そうね。勲ちゃんたち来た時間だとちょっと早いかもしれないから8時でいいわよ。あんまり遅くならないようには帰らせるから」
「すいません、気を遣っていただいて」
「なに、変なことはさせないから。安心して」
「そう言っていただけると。あ、で一つご相談なんですけど…」
会うにあたっての希望要望をヨーコに伝える勲。
「…、まぁそれは勲ちゃんが良ければこっちは別に構わないけど。それでいいの?」
「はい、慣れているといえば慣れていますので。その方がなんとなくですけど僕の心が正常でいられそうな気がしまして」
「やっぱり素質あるのかしらねぇ」
「ってことではない、と思いたいです…」
「わかったわ。そのことは来るまで言わないでおいてあげる」
「ありがとうございます」
「それじゃ、金曜日の8時、よろしくね」
「はい。では失礼します」電話を切る。
「はぁ」言ってしまったものは仕方がない。勲の大学での目標の一つに「一人でも多くの人に出会う」というのがある。その一つとして今回の申し出も受諾した。何度もいうようだが、勲はノンケ。そんな気は全くない。だが、メグルとリリィの話を聞いてさらにそう言った人々の感情を間近で見たい聞きたい、と向学心が勝った。
男として生まれ男として育ち、好きになったのは普通に女性。関係を持ったのも当然女性。人間として当然のことだろうと思っていたが、別の世界があることを東京に来てから身近に知った。その人を研究の材料にしようという訳ではないが、折角向こうから鴨がネギ背負って鍋もって出汁まで取って取り皿まで用意してくれているのなら会わない手はない。自分の知識の利益、割り切った。
「さってと」
立ち上がりシャワーを浴びに風呂へ向かう。ユニットではない勲の部屋。服を脱ぎ上半身裸で鏡の前に立ち自分の姿を見る。締まった腹筋に胸筋。着痩せするタイプ、脱ぐと凄いんです。そんな自分を鏡を見て一言。
「髪、伸びたなぁ」
佑奈からの返事はすぐに来た。しかし真白からの返事はまだない。恐らくバイト中なのだろう。金曜日にヨーコの店に行くことを伝え、その下準備のために佑奈の家に集まりたい。その連絡だった。他の男に会うなんてことは真白に限ってないだろうが、少し返事が遅いと、あんなこともあったので少し心配になってしまう。勉強しながらもチラチラとスマホを見ながら、あまり集中できずにいる勲。
30分ほどの後、真白からも連絡が入る。案の定バイト中で「遅くなってごめーん」とのこと。金曜日の件はこちらも当然のようにOK。バイトのシフトもないので授業が終わり次第三人は佑奈邸に集合することになる。そして勲は金曜まで、黙々と過ごすことになる。さて、買った衣装はどう使われる。




