第19話
「結構種類あるなぁ…」
ハンガーにかかる服を手に取り見つめる勲。まさか本当に目覚めてしまったのか。この行動は佑奈にも真白にも知らせていない。完全な独断のお忍び。といってもどうせ後から伝えることになる。なぜ来たかといえば実はもう勲に佑奈の服は着ることができなくなっていたのだ。
春先、まだ佑奈とそう変わらない体系で、借りた服が入る状態ではあった。しかし、大学に入ってから勲は遅れていた成長が来たのか、身長が伸びてしまい、今では佑奈と5cmは差が開いてしまい170cmに迫る勢い。丈なんか到底違ってくるので、もう着ることは叶わないのであった。そんな勲を真白は「やっと背のバランスが取れてきて抱き着きやすい」と嬉しそうにしている。勲自身も背が伸びる、それは嬉しいことだった。
「いらっしゃいませ。お客さん女装に興味あるんですか?」女性店員が声を掛けてくる。
「あ、いや。ちょっと大学のイベントで使うので下見に…」適当なことを言う。
「お兄さんが着るんですか? なんかすごく似合いそう」
「どうも…。ちなみに仮に僕だとしたらどの辺りのサイズですか?」
「そうですねー…。ここらへんなんかちょうどいいと思いますよ。170cmくらいまで着れますから」
店員が手に取ったものは黒と白のコントラストが美しいワンピース。男受けしそうな服だった。男が着るんだけど男に受けてどうすんだろうというのは無しで。
「へぇ…」
「試着しますか?」
「あ、いえ。それは大丈夫です! もう慣れて…、じゃなくて下見なので!」
「そうですか。でもお兄さん本当に似合いそう。やってたりしまs…」
「しません」食い気味に嘘で店員の質問を遮る。
「ちなみに値段は…、八千円」値札を確認する勲。割りといいお値段。
「これだけで済みます? 中に何か着たりとか」
「その必要はないですね。普通の服とは少しだけ違うので、これで済むようになってますから。どうしてもっていうなら少し小物でアレンジしてもいいと思いますよ。それはこういう店じゃなくて普通の服でも」
「へぇ」
「じゃあそこは借りればいい」と、頼るところはあの二人を頼ることにする。
「ちなみに下着って…」
「え?」それは普通着ません。佑奈に毒され過ぎ。
「ありがとうございましたー」
店員に見送られ店を後にする勲。その手には店の袋がある。結局買ってしまった。またここまで来るのが面倒になったのか、交通費の問題か。どうせ買うなら二度手間はイヤだと、一度店を出てATMで金を下ろし再度来店。お買い上げありがとう。
「これで、なんとかなるかも」
試着もせずに見ただけで購入。一抹の不安はあるものの、今の悩みを解決するカギになり得るかもしれないものを手に入れた勲。後生大事に抱えて電車に乗る。紙袋に店の名前が書かれていないのが救い。
「しかし、国民の血税がこんな衣装になるなんて。なんか申し訳ないな…」
真白事件の褒美としてもらった金一封の残りで買った衣装。大丈夫、公務員はみんなそんなもんだ。電車に揺られ自宅へと向かう。
自宅へ戻り、購入した衣装というべきか、それを取り出しハンガーに掛けまじまじと見る。なんでこんなもんが自宅にあるんだろう。買おうと思っていた学術書の金をこんなものにしてしまった。今になって若干後悔している。
「これ着て、この恰好でいけばまだ自然な気がするんだけどな」
何を企んでいるのか。そもそもこれを何に使うのか。恐らくこんな浅知恵佑奈と真白は一発で見抜くだろう。そしてあっという間に食い付いてオカズにされてしまうだろう。君は周りにネタを提供しているだけ。ネタに金を掛けているだけ。やはりまだまだブレーンは必要。一人でこんな物買って、相談すればいいものを。




