第18話
「はーい。ご注文お決まりですか?」
先程の打ち合わせの通り、アマネが他人行儀で注文を取りに来る。そしてすぐさまただならぬ雰囲気の勲に気が付く。
「ど、どうされました。お客様?」
「いえ、その…」
言い出そうにも巽の前ではどうやっても無理。どうやって気付いてもらうか頭をフル回転させている。しかし、そう簡単には出てこない。目配せしようにもそれも不自然。取り敢えずは注文をしなければ。
「た、巽からいいよ」
「お、じゃあ。えっと…カルボナーラと、後どうすっかな」
巽がメニューに視線を落とす。一瞬ではあるが勲とアマネが視線を合わせる隙ができる。変な感じを察したアマネは勲をわからない程度にチラ見する。
「あれ、あれ!」勲が胸元で小さく写真の方を指差す。
「…あ!」気づいて小さく声が出るアマネ。
「そうそう」とこちらは声を出さずに小さく頷く勲。あれだけは見られるわけにはいかない。見られたら…、である。
「えっと、それじゃ…」巽が言いかける。
「すいませーん、ちょっとお待ちくださいねー」
「あ、あれ」巽の注文を聞くのも半ば、急に振り返り席を後にするアマネ。と同時に勲が
「巽、外にアダムスキー!」
『UMA研』に所属している巽を振り向かせるにはこれしかない。勲が大法螺で気を引く。
「なぬ!?」
窓の外を見る巽。それと同時にアマネがマッハで写真。バックヤードに投げ込む立てを回収。一連の流れは巽に全く見られていない。見事なまでの連係プレー。片方無理があるけれどどうにかなる。
「すいませーん、お待たせしましたー」
「あ、じゃあ注文続けますね」
結局アダムスキーはどこへやら、戻ってきたアマネの笑顔で吹っ飛んでしまう巽。勲は机の下で「グッジョブ」といわんばかりの親指を立てている。さしあたり記憶が戻るのを食い止めた勲アマネペア。危難は去った。
それと同時に勲が「あ」と何か閃きにも似たものが頭によぎる。しかし今それは話すことでもないし話せるようなことじゃない。巽との久しぶりの外出をエンジョイすることに徹する。
手刀が炸裂することもなく、アマネを適当に巽に紹介するだけして無事メイド喫茶を後にする二人。巽に付き合い秋葉原の店を回り、帰りは別路線のため秋葉原の駅で別れる。改札で見送る勲、そしてすぐに踵を返して秋葉原の街へと戻る。秋葉原の街だけは佑奈と真白のお陰で一人で歩けるほどに道を記憶した勲。とある店へと歩を進める。
「確か、この路地…」
電気街口からは一本入った道にその店はあった。雑居ビルに入りエレベーターで上まで上がる。
「いらっしゃいませー」
店員から声が掛かる。目の前に広がるきらびやかな衣装の数々。そうコスプレ関係の店に勲は用を見つけた。
一人で来るのは初めてのこと。キョロキョロと店内を見回す。いつも二人に見せられていて物珍しいわけでもあるまいに。「あ、これ佑奈さんちにあるな」とか言いながらお目当てのものを探す。男物の衣装、ではなさそう。そしてその一角にたどり着き足が止まる。
「ここらへん、か」
足が止まったその前には『男の娘ゾーン』と天井から看板が釣り下がっている。そう、探していたのは男の娘用の服だった。




