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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第17話

 出迎えてくれたのは、以前勲が手伝った際お世話になった店員「パンテラ」その人だった。巽の後ろに隠れていたのに意味はなく、即座にばれてしまう。

「え、お前知り合いなの? 常連なの?」巽から早速詰められる。そういう訳ではございませんが。

「いや、諸々事情がございまして…」

「なんだよ、やっぱ佑奈の友達から紹介してもらってたんじゃねぇの。羨ましいなーお前」

 違うと否定したいところだが、言ってしまうと藪蛇どころか、ミドガルズオルムが出てきてしまう。アカマタでは済まないだろう。入り口であーだこーだしている二人。それを不思議そうに見ているパンテラ。

「お客さまー。それに町村君、入らないの?」

「あ、いえ。入ります入ります」

「じゃあこちらへどうぞー。久しぶりだね、夏以来?」

「あ、うん…」余計なことをしゃべってほしくないのにどんどん出てくる出てくる。

「イイチコさん今日休みなんだー。残念だね」

「そ、そうだね…」

 席に案内され腰掛ける二人。不意に名札を見るとそこに書いてある名前が以前と違うことに気付く勲。

「あれ、名前変えたんですか?」

「あぁ、これね。さすがにあれじゃ言いづらいかなって思ってさ。パンテラ改め『アマネ』でーっす」

「まぁ、あれよりはこっちの方がとっつきやすいですよ」

「でしょ。じゃあ注文決まったら教えてね」

「はい、ありがとうございます」

 一旦二人の席を離れるアマネ。そして勲が誰かの自然に気付く。巽のだ。

「お前さ、仲良すぎないか? 客と店員の話し方じゃないよな?」

「しまった」と、気付いたころにはもう遅い。巽の存在を忘れて以前の時のようにすらすら話していた。それを見ていた巽が明らかに疑念を抱いている。

「その、佑奈さんの友達に連れてきてもらった時仲良くなって…。大丈夫、この後巽のことも紹介するから!」

「お、嬉しいねぇ。あの子も可愛いなーって思ってたんだよ。本名とか知ってるか?」

「いや、本名までは」実は知っている勲。しかしさすがに教えることはできない。まだただの客と店員、第三者的な関係に留めているフリをしなくてはいけない。注文を前に巽がトイレに席を立つ、そのすきにアマネを呼び出す勲。

「ん、注文?」

「いや、じゃなくて。今日一緒に来てる奴に見?覚えない」

「見覚え? …、あ」

「わかった? ってことなので僕がここで働いてたこと内緒で。お願いします」

 アマネに手を合わせてお願いする勲。飛ばした記憶がここで蘇ってしまっては元も子もない。あの記憶は墓場まで持っていってもらわなくては困る。下手に「よしこ」のことが巽の前で言われようものなら、また伝家の手刀がうなりを上げる。今度は命の保証はできない。

「おっけ、わかった。黙っとく」指でOKサインを作り勲に見せるアマネ。

「よろしく」

 必要最低限の会話でアマネは席を後にする。それと入れ違いに巽が席に戻ってくる。

「アレ、もう注文しちまったか?」

「いや、まだだけど」

「そうか。今店員の人来てなかったか?」

「あ、ああ。あれは佑奈さんの友達は元気かなーって聞かれただけで」

「そっか。じゃあ注文すっか。決まったか? 俺はいつも来ると頼むもの決まってるんで大丈夫だ」

「パスタ?」つい前に注文を聞いた時のことを言ってしまう。

「何でわかるんだ??」

「あ、いやその。学食でいつもカツカレーか、じゃなければパスタ食べてるから、ほら!!」苦しい言い逃れをする。

「ああ、たしかに。よくわかったな、さすが心理学者」

「学者じゃないけどね」

 何とか誤魔化せた。頭がいいくせしてボロを出すのが特異なこの男。「よしこ」のこともどこかでポロリと言ってしまわないかと、自分で気が気じゃない。なーんて思っていながら「すいませーん」と注文をお願いするために店員を呼んだその時…

「…あ”!」

 声にならない声。勲の視線の先には、そう、以前働いた時に撮影されて唯一この店に伝説として残っていた「よしこ」の近影写真が入り口傍の棚にこれでもかといわんばかり、「私を見て」といわんばかりに飾ってある。

「アレはマズい!!!」

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