第3章:君には素質がある! てか、私たちにネタを提供してくれ!(第16話)
「あ、秋葉原かー。ちょっと遠いなー」
「何いってんだよ。30分くらいで着くじゃん。大丈夫だって、遅くなる前に帰るっての。真面目だなお前」
「ちなみにお店の名前って?」一縷の望み。違う店であってくれと願う。
「えっと、ちょっと待て…」スマホをいじり出す巽。
「ほら、ここだ」向かい合わせに座る勲の目の前にその画面をつき出す。
「あー…」
結果あの店。イベントと聞いた時点で覚悟はしたが、やはり有名店で来客も多い。そもそも前に巽が来店していることを知っている。知らないわけがない、目の前の男が接客しているのだ。男なのに?
「なんだ、知ってるのか?」
「いや、知ってるというか何というか。佑奈さんのお友達が勤めてた店だねー」
「お、マジか!? じゃあ知り合いとかいんのか。お近付きになりたい子いるんだよ」
「直接は知らないかなー」棒読み、大嘘こいた。
「その、佑奈の友達紹介してくれよ。是非話してみたい子がいるんだ」
「別に紹介しなくても紹介できるけどね…」
「え、なんて?」
「いや、なんでもない!」ボロが出そうで出ない話術。真白と漫才やればそこそこ人気出るんじゃなかろうか。
はぐらかすだけはぐらかしてが、結局その日の終わり、秋葉原に同行することになる勲。授業中こっそりイイチコに「今日お店に行くんですけどみんなに他人のフリしてくださいと伝えてください」とメッセージを送る。帰ってきた返事には「ごめん、非番(ー人ー)」と詫びがあった。さてどうしよう。真白に連絡を取ろうとも思ったが、既に部外者の彼女に頼むのも変な話。やはりここは自身の力で何とかするしかない。腹を括って向かうことにした。
大学の講義が終わり、巽と共に秋葉原へと向かう。佑奈や真白とは散々行く街だが、男友達とは初めて。そして男の格好というのも何か不自然さを感じている勲。ああそうだ、男の娘の格好で来たことの方が多いんだ。その違和感に気付き駅前で膝から崩れ落ちていた。
歩き慣れてしまった道。いつの間にか巽より先にスイスイ進み先導してしまう。そして例の店の前に到着する。
「ここだな」
「ここだね…」
『ルキャフェ ド ミエル』店の名前を意識したことがなかったがそんな名前だった。秋葉原には似つかわしくないといっては失礼か。フランス語のちょいとオシャレな名前。中身はアレだけど。
「じゃ、入ろうぜ」
「う、うん」
店に入る時だけ巽が先導する。既に一度来ているだけあって慣れているのか、ズイズイ階段を上る。後に続く勲、足が重い。
「カラン」と聞き慣れた音がして中から「いらっしゃいませ」の声が聞こえてくる。巽の後ろに隠れてコソコソ入店する勲。そして…
「あ、町村君じゃん」もうバレた。




