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第一話

 今回から初めて書かせていただきます。

 楽しんでいただければ幸いです。

 ふと、腕時計を見ると午後の一時を指している。

 どうやら峠道を自転車で上り始めて二時間経ったようだ。

 未だに山を越えられていない。

 ぼちぼち腹も減ってきて、道のりにイライラも募ってくるが、幸いなのは涼しいことだ。

 肌を焦がすような夏の日差しは杉の枝で防がれ、向かってくる風は火照った身体を冷ましてくれる。

 高校の夏休みを使って一人旅を始めて三日目だ。

 俺がなぜこんなことをしているのか、発端をさかのぼると三週間前のことになる。


 俺は吹奏楽部でチューバを吹いていて、大会を一ヶ月後に控えていた。

 二年生という立場は先輩にも後輩にも迷惑を掛けられないから、毎日必死になって遅くまで練習をしていた。

 この日も遅くに部室へ楽器を片付けに戻った。しかし、そこでとんでもないものに出くわしてしまった。

 部内で付き合ってる山下と阿部が真っ暗の部室でヤっていたのだ。

 あまりの衝撃に詳しいことは覚えていない。

 でも、確かこのことは内緒にしておくと約束したことと、気色悪いと思ったことは覚えている。

 馬鹿な奴らだとは思ったが、元々二人とは仲が良かったし、こんなことが学校にバレたら部活が出来なくなると思ったからだ。


 しかし数日後、どこからかこのことが流れたらしく、噂になった。

 そしてこの日から俺は部内でハブられるようになった。

 どうやらあいつらは、俺が話したと勘違いしやがったらしい。

 俺が山下に気があって、阿部に対する嫉妬から嘘の噂を流して二人を別れさせようとした、なんていう気持ちの悪いストーリーをでっち上げ、部内に広めたのだ。

 腸が煮えくりかえるかと思った。

 俺は今まで、あいつらは顔は良くないが、性格は良いと思っていた。信用していた。

 だが、どうやらそれは間違いだったようだ。

 おかげで、はたから見れば俺は加害者、あいつらは被害者。

 俺は部内の先輩、後輩、同級生全員から信用を失い、相手にされなくなり、陰口を叩かれた。

 譜面台が倒されたり、楽譜が無くなったりすることもあった。

 顧問もそれを知っているようだったが、何もしてはくれなかった。


 俺は本当に後悔した。

 なんであの時あいつらを見逃したのか。

 なんであんなやつらと仲良くしてたのか。

 なんでこんな部活に入ったのか。

 俺は家で泣いた。高校生とは思えないほどに泣きまくった。

 ついこの間まで何も無かったのに。

 特に信用していた人達から一気に裏切られたショックは大きかった。

 しかし、そんな扱いをされ、毎日泣いているうちに、所詮人なんてそんなもんなんだと、どうでもよくなっていった。


 俺は部活を辞めることにした。

 大会はおよそ二週間後。俺がこんな時期に辞めたら確実に責められるし、これ以降の大会にも影響が出るだろうが、どうでもよかった。

 辞める時、顧問には偉そうにこう言われた。


「お前はこれでこの部が大会で悪い結果を取れば満足か?」


 その通りだと言ってやろうかと思った。だが、敢えて何も言わなかった。言ったら俺の品位を下げるだけだし、話をこれ以上大きくしたくなかったからだ。

 それに、俺はもう何を言われても腹が立たない位に疲れていたのだ。

 俺は一身上の都合と押し通して部活を辞めた。


 俺の親父とお袋は会社でエリートなのか、二人揃って海外出張中だ。親父は二年間、お袋は半年間だという。

 俺は海外の学校に通える自信などないし、部活をやりたいし、友達と離れたくないと言って、半年分の生活費として三十万円をもらって日本に残っていた。

 部活を辞めた今、夏休み中、俺は家に一人ぼっち。クラスの友達は連日部活。彼女もいない。

 この時ほど、マンガに出てくる通い妻状態の幼馴染みを欲しがったことはない。

 孤独が怖くなって、俺はついにこの考えにたどり着いた。


 そうだ、旅に出よう、と。


 思いついてからの行動は速かった。

 親父が買っていたツーリング用の自転車を手入れし、必要な道具を買い揃え、課題は事前に全て終わらせた。

 費用は小遣いだけでは足りなかったから、三十万円から少し出させてもらった。両親に感謝しなければならない。

 そして、夏休みが始まると同時に旅に出た。

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