第五話「魔術修行」
さて、俺たちは街の外へと出ていた
「着いたぞ、要件は何だ?」
「これから魔術の修行を始める」
おっ! 魔術を使うのか
楽しみで楽しみで仕方がない
「舞い上がるのも結構じゃがそうやすやすとはいかんぞえ」
「はいはい、分かってますよ」
「まずはこの世界ではどれだけ魔力が大事か教えておこう」
レリータは説明してくれた
この世界では魔力が高い人間が上、つまり強いこと
身体能力も高いほうがいいがそれは魔力で補えること
魔力は精神力と密接な関係があることなど
「それでは手本を見せる」
そう言いつつレリータは右手の手のひらを上にした
その手のひらから赤い球体が出てきた
火の玉だ
手のひらに火の玉を浮かべた幼女に萌えたあなたはY・Hタイプだ
「何くだらんことを抜かしておる」
「すいませんでした」
レリータは一息置くとこう言い放った
「これからお主にはこれをやってもらう」
「ほう」
「まずは自分でやってみ」
俺は言われた通りにした
要は精神を集中させればいいんだよな
う~ん
う~~ん
う~~~ん
う~~~~ん
う~~~~~ん
やばい、ウンコもれそう
「ちょっとトイレ行ってくる」
「はあ……さっさと済ませるのじゃぞ」
俺は意識しすぎたせいか便が火の玉に見えて仕方がなかった
トイレを済ませた俺は再び街の外へ出る
「やっと戻って来おったか」
「遅れてすいませんでした」
「それでは魔術修行を続けるぞえ」
「はい」
「もう一度精神を集中してやってみい」
俺は精神を集中させた
う~んと何度も唸った
しかし、魔術が使えることはなかった
「はい、ここまでじゃ」
「ああ、ちょっと! あと少しで出来そうだったのに」
「今のお主には無理じゃ」
「え? 何だって」
「お主のやり方は間違えておる」
「そんなあ」
レリータから厳しい指摘を受ける
俺、これでも結構頑張ったんだぞ
「まずお主は真剣にやってるつもりじゃろうが」
「……」
「あれでは時間を無駄にするだけで一向に魔術は使えんぞえ」
そんな……酷い
俺泣いちゃう
「まあ聞け」
「はい」
「精神を集中させるというお主の考えはあっておる」
「……」
「しかし、その努力の方向性が違うのじゃ」
「ふむ」
「まずは心を無にすることが大事じゃ」
そんなこと言われても無理だよ
ブラック企業で上司に怒鳴られたりとか
熟女のあの絶妙なテクニックとか
昔、母さんに毒を盛られた手料理を振舞われたこととか
嫌でも頭の中に思い浮かんでくる
「お主、ろくな人生を歩んでおらんのじゃのう」
「うるせえやい!」
「まあいい、では嫌でも心を無にしてもらう」
「え?」
目の前に木で出来た人形が現れた
右手には木刀を持っている
「ん?」
俺の手にも感触があった
右手を見る
木刀が握られていた
「この人形と戦ってみい」
レリータがそう言った途端人形が俺に襲いかかってきた
「うわっ!」
咄嗟に俺は人形の攻撃を受け止める
人形と俺の攻防は続いた
俺は必死に戦った
しかし、普段運動をしていない俺にとってこれは苦痛でしかなかった
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「もう動けんのか、情けない男じゃのう」
「う、うるせえやい」
木で出来た人形が消えた
「どうじゃ心を無にする、少しは理解できたか?」
「う~ん、今いちよく分からん」
「人形と戦ったときお主は他のことを考えたか」
「いいや、人形と戦うのに集中していた」
「それが心を無にするということじゃ」
「なるほど」
「とりあえず感覚が掴めるまで浸すら修行じゃな」
「でも今日はもう疲れた……休ませてくれ」
「まあ良い、初めてのことで疲れたじゃろう」
俺たちは街の中を歩いていた
「そういやレリータ宿代はどうするんだ」
「安心せい、ワシはお金を錬金することが出来る」
「へえ」
「手を出してみい」
俺は手のひらをレリータに近づけた
するとレリータは俺の手のひらに手のひらを合わせた
すると俺の手のひらに小銭が溢れた
「おおっ!」
「とりあえず自分で稼げるようになるまではワシが支援しよう」
「助かるぜ、正直野宿することになるかと不安だったんだ」
俺たちは宿に向かった
辺りはもう夜だ
俺は今日の魔術修行でもうクタクタだった
俺たちは宿代を払い宿の部屋の中に入る
俺は真っ先にベッドにダイブした
「うーん、ふかふかで気持ちいい」
「ワシは他に用事があるのでこれで失礼する」
「用事って何だ?」
「わざわざお主に話す必要はない」
「はあ」
「それよりもう遅い、明日も修行じゃ、それに備えて寝よ」
「分かりましたレリータさん」
レリータは姿を消した
「明日も修行……か」
勇者になるのは大変だな
最初からチート並みに強ければいいのに
まあ自分が勇者になれる可能性があるだけ幸いか
そう思いつつ俺は眠りについた