大丈夫じゃない
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あれから一週間。
二見が誰かと話しているのを見掛けるだけで腸が煮えくり返りそうだった。
いつも感じていた視線は無くなり、俺ばかりが彼を見つめている。
虚しい。
二見はいつもこんな気持ちだったのだろうか。
……なんで皆二見に話し掛けるんだろう。
電話を掛けても繋がらなかった。
夜に呼び出しても来てくれなかった。
二見。
お前に触れながら眠りたいよ。
放課後、昇降口で彼を待ち構える。
姿が見えて、数瞬目が合ったがすぐに逸らされて心臓が潰れそうだった。
名前を呼びたいのに口が開かない。
応えてくれなかったら、俺は消えてしまいたい。
だから何も言えずに近付いて彼の手首を掴んだ。不機嫌さをまとった二見が「なんだよ」と文句を言う。
俺を気にした風も無く下駄箱からスニーカーを出して、気怠そうに履き替えた。
「ふ、二見」
手首を引っ張る。
自分の方に引き寄せる。
そのまま昇降口を出て自宅へ向かう。
二見は何も言わなかった。
俺は口を開いてしまえば泣きそうだった。
自宅に辿り着き、やっと彼が「なに」と吐き出す。
なに?
なんだろうか。
解らないけれど、もうたまらなくなった。
俺の知らない所で彼が笑う。
俺には笑い掛けてはくれないのに。
なんで原とは話すんだろう。
何を話しているんだろう。
どうせくだらない話だ。
くだらない話を二見としたい。
二見。……二見。
「木崎? どうしたんだよ大丈夫か」
「だ、大丈夫じゃない」
声が震えて情けない。
でもどうしようもない。
二見が俺を見ない。
不機嫌そうな独占欲で俺を愛して欲しい。
愛して。
「愛して、二見」
祈るように彼の胸元に額を擦り付ける。
二見の身体が強ばったかと思うと、すぐに弛緩した。
深いため息が吐き出されて、俺は一体何を言われるのだろうとまた肩が震えた。
「木崎が俺を愛してくれたら、良いよ」
「え?」
顔を上げると、近い位置で彼と視線がぶつかった。
少し、泣きそうな顔をしているかも知れない。
「俺を愛してくれたら」
「…俺は、二見を……」
俺は、二見をどうしたいんだろう。
愛されたい。愛されたいけれど、その先は?
ただ好きだと言われたら、俺はなんて返せば良いのだろう。
愛するとはなんだろうか。
解らないけれど、二見には愛されていた気がする。
また二見が俺を見てくれたら、俺は満足出来るのだろうか。
そうしたら、それから、俺はどうしたら良いのだろう。
愛されたい。
けれど愛する方法が解らない。
俺はお前に傍に居て欲しいけど、それは愛していると言えないんじゃ無いだろうか。
でも、愛さなければ二見は俺を愛してはくれない。
「俺は、お前を、…お前が、俺とは口をきいてくれないのに、誰かと話しているのを見るのが苦しい。傍に居てくれないのが苦しい。一緒に眠ってくれないのが苦しい。……俺は、どうしたら良いんだろう」
そう、多分、俺は二見が好きだよ。