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【完】神様は嘘つき  作者: バひ゛ろン
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8.なきすさぶ言の葉の下手人

 欲しいものはいつも誰かが先に持っていた。

そのさまを端から見る毎にいつしか私は、自分には勿体ないものだったんだと諦めることに慣れてしまっていた。


そんな自分を変えたくて、母に後押しを受けて踏み出した勇気の一歩、二歩…七歩目で偶然手に入れた居場所。

七転び八起きの諺を前にして勝利を収め、いつの間にか自信を持つ様になれた私の側には、ずっと偉大な母の存在があった。


「私…どうしたら良いんだろぉ…」

もう頼るわけにはいかないと実家を飛び出し挑んだ1人暮らしの果て、惨めにもまた助けて欲しいと縋り付くしかない弱さ。

なまじ経験してしまった2人暮らしが余計に助長させてしまった様にも思う。

「ふぉかあ、さん…」

鼻を啜りながら、私は懸命にその名を呼んだ。


「(良い年して泣きなさんな)」

電話機の向こうから強く弱く程よい声色で(たしな)める母の言葉が、私の心を撫でながらに一喝する。

「(アタシも…いつまでもアンタの親じゃ居られないんだけどねぇ…)」

と不意に不穏な言い回しをすると母は

「(麻衣。アンタの周りには、まだ誰もアンタを信じてくれる人は居ないかい?)」

と訊ねてきた。


私は多賀谷先輩のことを脳裏に浮かべながら

「居る…居るけ、どぉ…」

と答るも、急にヒトミのことが浮かんで

「もぅ…居ないの…」

とこぼれた。


「(…待っとるだけじゃ何も解決せんよ?)」

その言葉は決して事の本質を見抜いてくれた故のものではないだろう。

けれど確かに胸に響いた。

「(上手に生)」


「お母さんありがとう」

やるべき事を見付け、意を決し放った私の言葉は、意図せずして母の言葉を遮る。

「あ…ごめん」

と慌てて謝ると母は笑い、そののちに、行っておいでと背中を押してくれた。

やはり少しズレているけれど、それはとても励みになった。


 母との電話を終え、真っ先に連絡を取ったのは多賀谷先輩。

昨日は昨日で世話になった上、今朝も朝早くから色々と落ち着くまで自宅待機で構わないという主旨を伝えてくれた現在只唯一の職場での拠り所である。


ただ先程まではその一報がより不安を駆り立てていたわけでもあるが、冷静になった今なら分かる。

彼女は一心に私の事を心配して接してくれていたのだと。


「(もしもし?)」

丁度昼休みを迎えている時間だったからだろう。

多賀谷さんの応答はとてつもなく早かった。


「多賀谷さん、すいません」

初めに切り出したのは迷惑や心配をかけて申し訳ないという心の表れ。

勿論そこには感謝の意も込められているが、気恥ずかしいのもあって表面上は割愛。

今はまず何より

「島さんの入院先」

を聞くのが先決だ!と続けざまに問いを放った。

「分かりませんか?」


少しの間を置いて返ってきたのは

「(行ってもまだ起きてないかもしれないよ?)」

という不安めいた声色の言葉で

「(それに、アイツがどう受け止めてるかも分かんないし…何があっても後悔しない?)」

と続いた。


しかし、対する私が答えるのはきっと彼女が一番望んでない

「いえ、多分…何があっても後悔はすると思います」

なんて言葉で、

「でも、ちゃんと向き合いたいんです」

というもっともらしい理由を付けて一緒くたに放たれる。

それから考えあぐねる様に沈黙を呈した彼女を尻目に私は

「お願いします!」

と追撃。

その効果もあってか、渋々といった感じではあったものの知りたいことは教えて貰えた。

最後に

「ありがとうございます」

と伝えると、無理しないでね、頑張って、という激励の言葉までも戴けた。


 直ぐに家を発つ準備をした。

とにかく島さんに会って、もし起きていたなら話を聞かせてもらおうと決めて。


そうして玄関口まで移動し、靴を履いて扉を開け放った時、急にじっとりとした生温い感覚が吹き抜ける様に身を襲った。

ふとその感覚を辿って振り返ると、そこには背を向けるヒトミの姿があった。


「ヒトミ…?」

そう呼びかけるも返事はなく、ただ彼女からは嫌にギスギスとした気の様なものが伝わってくる。

「出掛けてたのか?」

と次いで問いを放つと、ゆっくりと彼女の首が縦に揺れ動いた。

「…なぁ、島さんがあんな目に合ったのは…ヒトミのせいなのか?」

聞きながらに自らも気分の悪くなる問いかけ。

それでも私は本人からのハッキリとした否定の言葉を聞きたくて

「黙ってたら分からない」

と未だ口ごもる彼女に押し迫った。

と同時により強く感じたむせ返るほど陰鬱で狂気染みた何かに思わず後退る。


そうして私が困惑しているうちに程なく

「分からないんです」

と彼女は何とも煮え切らない回答を吐いた。

それにどういうことかと更に追及するも

「私のせいかもしれないし、そうじゃないかもしれないし…」

とやはり何とも歯切れの悪い言葉しか返って来ず。

かと思えば急に

「でも安心して下さい!」

と放ち、

「彼は死にませんから」

と次いで述べた。


だが私にとっては決して

「そういう問題じゃない!」

事柄で、

「死ななきゃ傷付けて良いのか?」

と自分でも気付かない内に彼女を犯人にしていて、

「違うだろ…?」

と無様なくらいに感情的で、

「私が傷付くのは良い…けど…私の周りの人達を傷付けるなら出てって!」

と突き放した。


「…ごめん、なさい」


その後、いつの間にか彼女の姿は消えていて、不意に私は全身を脱力感に襲われる。

ストンと落とした膝がジンと痛みを伴うも、直ぐに私の意識はそこから離れ

「あ…れ?どう、して…?あんな…言葉…?」

と脳裏に一心、後悔と絶望感とに飲み込まれた。

「ヒトミ…」

ぽつりとこぼした声は直ぐに霧散し、虚しさを生み残して消失した。

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