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【完】神様は嘘つき  作者: バひ゛ろン
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2.昼過ぎ御飯に呼称を少々

 実家から半ば強引に貰って来た食材をダンボールから取り出し、次々と冷蔵庫に詰めていく。

その傍らには膝を抱えて屈み込み、退屈そうにこちらを見やる貧乏神の姿。


それが気になって思わず

「食品触るとさ…腐ったりする?」

と問いかけてしまう。


すると彼女はムキになって

「私は腐神じゃありません!」

と迫ってくるのだが、正直神様の知識など無いのでピンと来なかった。


「とりあえず食品に悪影響がないなら良いけど…」

と呟きつつ

「ま、これから共同生活するわけだし…手伝え」

と強要。


「仕方ないですね~」

と言いつつも表情が明るみを帯びたのはやはり退屈だったからだろうか。

通り抜けて食材が床に落ちやしないかと気にしていたら、霊と一緒にしないで下さいと怒られてしまった。


「ところで…」

と作業の途中、ふと彼女に問いを放つ。

「神も腹が減るのか?」


「いえ、そんなことはありませんよ?ですが、私は娯楽の一種として嗜みます」

ワクワク感といった様な期待に満ちた眼差しを彼女は向けてきた。


それに少なからずプレッシャーを感じ、

「好物は?」

と先んじて献立を絞らんと無難な質問を送る。


すると彼女は目を輝かせつつ

「味噌!」

と一声。

それなら、と丁度良く手元にあったそれをポンと彼女の目の前に置き、どうぞどうぞと勧める。

「え」

と予想通り困惑の色を浮かべる彼女の顔を見、口元を綻ばせぬよう耐えるのが少し辛かった。

「…確かに味噌って言いましたけど…」

わたわたと戸惑いつつ、次いで呟く姿は実に滑稽。


結果、遂には此方がこらえられなくなり、

「あ、いや…てっきり…生味噌、ダイレクト派かと…」

と口元にあてがう拳では隠しきれないほどに声を震わしてしまった。


その様子を見やり、彼女も冗談であったことにようやく気付いた模様。

「神様ナメてます?」

じっとりとした眼差しと共に少しばかりドスの利いた声が向けられた。


 つつがなく進んだことで食材の片付けも早々に終わり、直ぐさま昼食の準備に取り掛かった。

といっても時間的にはとっくに昼も過ぎ、所謂おやつ時といったところ。


まぁ細かいことは良いかと作業を進めていると、いつの間にか側で流れを見つめる彼女の姿があった。

気が散るからあっちに行けと言うと、一瞬ぶすっとしながらも言われた通り居間に移動していた。


それからも時折ふと感じる熱い視線に苦悩はしたものの、どうにか無事作業完遂。

買い物もまだなので早炊きの白飯と味噌汁だけという寂しい食事ではあったが、彼女は苦い表情すら浮かべることなく食前の挨拶と手合わせ一礼を為してくれた。


そうして食べ始めて半ば

「まいうー!」

と今ではもうとんと聞かなくなった死語の様な言葉を使う神。

「しかしまさかアナタがこんな愛の込もった味噌汁を作れるなんて…あぁ、懐かしい…」

と不意になにやら思い出に浸っている様子。


それに対して

「安い思い出だねぇ」

と鼻で笑うと


彼女は

「思い出はプライスレスなんです!」

と声を荒げ、イーッと挑発を返してきた。

その様のなんと子ども染みたことか──割と可愛かった。


「ところでお前は貧乏神なんだよな?」

ふとやり取りに間が空いたところで再確認。


「ん?えぇ…はい」

唐突な問い掛けに不思議さを浮かべたか彼女は訝しげに答える。


しかし別に大した意味があったわけではない。

ただ

「毎回毎回貧乏神と呼ぶのは面倒だな」

とふと思っただけで

「他に呼称はないのか?」

と聞いておきたかったから。


「信仰上の名称ならいくつか候補はありますが…」

その渋り顔からするにどれもあまり気持ちの良い名称ではないのだろう。

別にお前の呼んで欲しい名前で構わないと伝えると

「ではヒトミで」

と随分可愛らしい呼称を要求された。

由来を聞くに、神友から(ヒン)(トボ)(カミ)より一文字ずつをもじってそう呼ばれているとのこと。


「なかなかのネーミングセンスだな」

もの凄いこじつけな気もするが。


とはいえ彼女自身はかなり気に入っている様子。

「でしょでしょ」

と嬉しそうにドヤ顔を浮かべ誇っていた。

かと思えば一転、ハッとした様に見開いた目を此方に向けて一言。

「私はなんて呼んだら良いです?」


「ん?あぁ…」

と一瞬こちらも多種ある自分の愛称を思い浮かべるが

「じゃあ麻衣で」

と無難に本名を伝えた。


「じゃあマイマイねー!」


「私はかたつむりか」

幼少期に貰った懐かしい愛称との突然の再会に思わず此方も懐かしい切り返しがこぼれた。

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