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ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.1 見習い司書、初めてのレファレンス
6/68

レファレンスNo.1 2-3

「わあ……。何これ、すごい……」


 くぐった観音開きの扉の先に広がっていたのは、正に圧巻(あっかん)の光景だった。

 

 何がすごいって、まず天井がすごく高い! ちゃんとはわからないけど、少なくとも学校の体育館より高いのは確実だ。

 

 でも、本当にすごいのは、その広さだ。



 何とこの書庫――壁が見えない。



 その場でぐるりと一周してみたけど、どの方向にも延々と、高さが五メートルくらいある梯子(はしご)付きの本棚が連なっていた。

 本棚と本棚の間の通路にポツリと、わたし達が通って来た扉だけが立っている感じだ。


 確かにこんな光景、普通ではありえない。

 この図書館が世界の外側にあるというのも、冗談ではないのだと思えてくる。


「先程、館長も言っていましたが、ここには古今東西のあらゆる書物が収められています。おかげで書庫もこの通り、(はし)が見えないくらい広くなってしまうのです」

 

 規格外の光景を前にして呆けるわたしの横で、立川さんがそう教えてくれる。

 古今東西あらゆる書物か……。話半分って感じで聞いていたけど、この光景を見てしまったら、信じないわけにはいかないかも。


「本当にすごいですね。でも、こんなにたくさんの本をどうやって集めているんですか?」


「ふむ……。本を集めているというよりは、本が現れるという方が、表現としては正しいですね」


「本が……現れる?」


 立川さんの言っていることの意味がわからず、思わず首を(かし)げる。

 すると、立川さんは優しい笑顔を浮かべながら頷いた。


「そうです。実は、現実世界で本が作られると、全く同じ本がこの図書館の書庫に現れるという仕組みになっているのです。つまり、ここにある本は現実世界で生まれた本のコピーということですね」


「な、なるほど……」


「ちなみに、本が増えるたびに、書庫の方も自動的に広くなっていきますよ」


「ほ、ほへ~」


 本当に、何から何まで規格外だ。

 本が自動で増えていって、書庫もそれに合わせて大きくなるなんて、どれだけ都合のいいシステムをしているんだろう、この図書館は……。



(でも……)



 常識外れなシステムに若干(じゃっかん)(あき)れながら、わたしはふと夢で見た光景を思い出していた。


(でもやっぱり、前に来た時の部屋とは違うんだよなぁ)


 セファーラジエルがあった部屋を思い返してみるが、あの部屋はこじんまりとしたものだった。

 こんな風に部屋の端が見えない空間とは、似ても似つかない。


(うーん。セファーラジエルがいるのは、ここじゃないってことなのかなぁ)


 などと考えつつ、通路を歩きながら本棚の先をキョロキョロと眺めてみる。

 しばらくそうやって探索していると、立川さんがとなりにやってきた。


「どうですか、詩織さん。ご満足いただけましたか」


「あ、はい。大満足です。書庫を見せてくれて、ありがとうございました」


 立川さんに向かってペコリと頭を下げると、立川さんは涼やかに「いえいえ」と軽く手を振った。

 うーん。こういう所作一つとっても、立川さんがやると様になるなぁ~。


「では、そろそろ閲覧室に戻りましょうか」


「はい!」


 立川さんの隣をトテトテと歩き、わたしは閲覧室へと戻ったのだった。



          * * *



「――それで、結局お前はどんな本を探しているのだ?」


 書庫から戻って、再びソファーに座ったわたしに、エノク君が尋ねてきた。

 表情から察するに、これ以上は付き合いきれないといった感じだ。

 

 だけど……はて? 探している本とは、何のことだろう?


「えっと……、わたしは別に、本を探したりなんかしてないよ」


「はあ? じゃあ、お前は何でここに来たんだ?」


 きょとんとしたまま答えると、エノク君はわけがわからないという顔で問いつめてきた。

 そんなこと言われても、ないものはないんだから、仕方ないじゃない!


「いや、だからさっきも言ったように、図書室でここの扉を見つけて、何となく気になったから入ってきたんだってば!」


 わたしがそう言うと、今度はエノク君がポカンとなってしまった。もう、完全に放心状態だ。

 試しにエノク君の顔の前で手を振ってみるけど、全く反応しない。

 お~い、エノクく~ん。戻ってこ~い。


「利用者ではない詩織さんの前に扉が現れた、ということは……。詩織さんは、ラジエルライブラリが選んだ新しい司書候補ということでしょうか?」


 ポカンとしているエノク君で遊んでいると、立川さんが()し量るようにそう言った。

 ん? 立川さん今、『司書候補』って言った?

 何かその言葉、前にも聞いたような気が……。



 と、わたしがそんなことを考えていると――。



「あ、ありえんっ! こんな間抜け面の小娘が新しい司書候補だとぉ!」


 放心状態から回復したエノク君が、わたしを指さしながら、立川さんに向かって大声で叫んだ。

 し・か・も――わたしに対して、とんでもな~く失礼なことを!


「なっ! 間抜け面ってどういう意味よ! 第一、わたしは『小娘』じゃない。わたしには、神田詩織っていう立派な名前があるんだから!」


 子供扱いに続き、今度は小娘扱い。しかも、言うに事欠いて『間抜け面』とまで抜かしやがりましたよ、このお子様。

 これは――さすがに聞き流せない!


「だあ~、うるさい! 今、大事な話をしておるのだ! ちょっと黙っていろ、小娘!」


「ああ! また『小娘』って言った~。エノク君の方が、年下のくせに~。子供のく~せ~に~!」


 ヒートアップする、わたしとエノク君の言い争い。

 その様子を見かねたのか、立川さんが再びわたし達の間に割って入ってきた。


「まあまあ、二人とも落ち着いてください」


 さっきと同じく、わたし達の機先をそらす完璧なタイミングでの割り込み。これはもう、見事としか言いようがない。

 おかげで、わたしもエノク君も、一呼吸を入れて落ち着くことができた。


「はあ……。確かに、このまま言い争いをしていても仕方がない。それに、利用者でもないこいつが、この図書館に来たのも事実。――認めるしかあるまい」


 エノク君が納得できないけど仕方ないという顔で、ブツブツとつぶやき始めた。

 小さな声でよく聞こえないけど、何言ってるんだろう?


「おい、お前! お前はこのラジエルライブラリの、栄えある司書候補に選ばれたようだ。光栄に思え!」


 と思ったら、今度はわたしにビシッと指を突き付け、偉そうな態度で妙なことを言ってきやがりました。


「むぅ~! また偉そうに。そもそも、『司書候補』って何なの?」


「司書候補は図書館司書の候補ということだ。このラジエルライブラリの司書候補! わかったか!」


「言葉の意味がわからないんじゃないよ! いきなり『お前は司書候補に選ばれたようだ!』って言われても困るから、どういうことなのか説明してってこと!」


 額と額をくっつけて、激しく怒鳴り合うわたしとエノク君。

 もはや一触即発どころか、わたし達の怒りは絶賛大爆発中だ。


「お二人とも、どうどう、どうどう」


 三度目のケンカを始めたわたし達を、立川さんがすかさずなだめに入る。

 立川さん、さっきから口を開くたびに、ケンカの仲裁をしている気がする。

 まあ、立川さんにそうさせているのは、わたし達なんだけど……。


「館長、結論だけ言っても伝わりませんよ。詩織さん、本当に申し訳ありません。館長も、詩織さんを怒らせたいわけではないのですよ」


「い、いえ! わたしもつい、カッ、となってしまって……。すみません」


 本当に申し訳なそうに謝る立川さんに、わたしも慌てて頭を下げた。

 何というか、立川さんに悪いことしちゃった気分だ。


「ほら、館長も」


「むぅ……」


 立川さんに背中を押されたエノク君が、バツの悪そうな顔をする。

 でも、すぐに「はあ……」と息を吐いて、わたしの方を向いた。


「すまなかった。偉そうな態度を取ったり、ちゃんと説明をしなかったのは、オレが悪かった。許してくれ」


「ううん。わたしの方こそケンカ腰になってしまって、ごめんなさい」


 向かい合って謝るわたしとエノク君を見て、立川さんが笑顔でうんうんと頷いている。

 何だか、とっても満足そうだ。


 わたし達がお互いを許し合ったところで、立川さんが話を切り出してきた。


「司書候補の件について、ちゃんと説明させてもらいたいのですが……。詩織さん、聞いてもらえますか?」


「はい。――よろしくお願いします」


 わたしはコクリと頷きながら、神妙(しんみょう)な面持ちでそう返した。

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