レファレンスNo.3 5-2
わたし達が書庫に入って、およそ三時間。
コンパスの針が指し示すままに書庫を飛び回ったわたし達は、見つかった本を次々と確認していった。
ただ……これまでに十冊くらいの本を確認したんだけど、めぼしい情報が書かれた本は見つからなかったんだよね。とほほ……。
(うーん……。今回も、なかなかいい本が見つからないなぁ……)
エノク君と立川さんに「頑張ります!」と言って出てきたのに、この有様……。わたし一人では、やっぱりダメだったのか。
そんな考えが浮かんでは消え、内心ではちょっぴり焦り気味だ。
(これは、少し探し方を変えてみた方がいいってことかな?)
前に立川さんの講義で、教えてもらったことがある。
物事の見方は、決して一つじゃない。それはまるで宝石のように、いろんな方向から見ることで、別の顔・別の輝きが見えてくるものなんだって。
だから、レファレンスで行き詰まった時は、別の方向から依頼を見てみると突破口が見える時があるそうだ。
つまり、今こそ見方を変える時なのかもしれない。
そう思って別の方向性を考えていると、次の本のある書架に着いたのか、空飛ぶ絨毯は本棚の間に降りて行った。
(あ、次の本のところに着いたみたい。なら、別の探し方を考えるのは、次の本を見てからにしようかな)
手がかりの可能性が目の前にあるのなら、まずはそちらを確認するのが最優先。この書架にある本で何かわかるなら、それが一番だしね。
気持ちを切り替え、わたしは葵ちゃんといっしょに絨毯を降りた。
「えっと、この近くにあるはずなんだけど……」
「あっ! これじゃない?」
コンパスを見ながら周りの本棚を見て回っていると、横にいた葵ちゃんが一冊の本を指差した。わたしもコンパスの針を見て確認したけど、どうやら間違いなさそうだ。
「そうだね。これみたい」
葵ちゃんが指さしていた本を抜き出す。
本はとても古い時代の本みたいで、半紙みたいな紙を半分に折って綴じた本だった。前に立川さんから教えてもらった、『袋綴じ』っていう日本の昔の本かな?
「うん、間違いないと思う。表紙にあの神社の名前が書かれているもん」
横からわたしの持つ本をのぞきこんだ葵ちゃんが、そう言う。言われるがままにわたしも表紙を見てみると、筆で書かれた字の中で、神社の名前の部分だけ何とか読み取れた。
これは期待できそうかなと思って本を開いてみると、中の文章は虫が這ったような字で書かれていた。おそらく、これが崩し字とかいうやつなんだろうね。
ただ、これが崩し字であるとわかっても、それをわたしが読めるかどうかは別問題なわけでして……。
「な、なんて書いてあるのかわからない……。葵ちゃん、読める?」
「私もこれは読めないかな……」
学校では才女で通っている葵ちゃんでも、さすがにこれは読めないようだ。
まあ、普通の小学生に崩し字を読むスキルがある方がおかしいか。
「あっ! でも見て、詩織ちゃん。ここにあの勾玉の絵が描いてあるよ。もしかしたら何かわかるかもしれないし、持って帰ってみようよ」
パラパラと本をめくっていた葵ちゃんが、わたしに提案してきた。
葵ちゃんの開いたページを見てみると、そこには確かに、あの勾玉そっくりの挿絵が描かれていた。
「そうだね。もしかしたら、立川さんなら読めるかもしれないし……。それじゃあこの本を持って、一度閲覧室に戻ろっか。――休憩も兼ねてね」
三時間も根を詰めて探していたから、葵ちゃんの顔には疲労の色が浮かんでいる。それはわたしも同じだろう。
せっかく成果っぽいものも見つかったのだから、ここは休憩がてら、この本を持って一度閲覧室に戻るのが得策だ。
「あ、もどってきた!」
わたしと葵ちゃんが本を持って絨毯のところに帰ると、絨毯の上で待っていたキンタ君とアンちゃんが、わたし達の方に駆けてきた。
「アオちゃん、しおりお姉さん、本見つかった?」
「うん、見つかったよ。ほら」
『ヤッターッ!』
葵ちゃんが本を見せると、二人はバンザイしながら喜ぶ。
この子達はずっと元気だね。いやはや子どもの体力というのは恐ろしいものだ。
「ただ、わたし達だとその本を読めないので、一度閲覧室に戻ろうと思うの。だから二人も、絨毯に乗ってください!」
『はーいっ!』
返事をした二人は絨毯の上に飛び乗り、わたしと葵ちゃんも二人に続く。
全員が乗ったことを確認したところで、絨毯が再び空に舞い上がった。




