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ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.2 見習い司書の元気の素探し
38/68

レファレンスNo.2 8-2

 わたしがエノク君と立川さんから合格点をもらって一時間ほど……。

 遂に、デューイさんが閲覧室にやって来た。


「よく来てくれたな、デューイ」


「お邪魔(じゃま)します。またお世話になります」


 うれしそうにデューイさんを出迎えるエノク君と、柔らかな笑顔でエノク君に会釈(えしゃく)を返すデューイさん。

 二人が和やかな雰囲気を(かも)し出していると、立川さんが自然の所作でその輪の中に加わった。


「はじめまして、デューイさん。私はラジエルライブラリの司書で、立川と申します。どうぞ、お見知りおきを」


「ご丁寧にどうも。はじめまして、デューイです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 お互いに自己紹介をした立川さんとデューイさんが、そのまま握手を交わす。

 ふーむ……。とっても絵になる光景なんだけど、(はた)から見ているとすごくメルヘンだなぁ。

 ともあれ、わたしも軽くデューイさんとあいさつした後、みんなそろって応接用のソファーへ移動する。今日は、わたし達三人とデューイさんが向かい合う形でソファーに座った。

 全員が着席したところで、わたしは一度深呼吸。そして、デューイさんに向かって口を開――こうとしたところで、エノク君が手で制してわたしを止めた。

 どういうことかという顔でエノク君を見ると、わたしの代わりにエノク君が話を切り出した。


「では早速、昨日のレファレンスの続きを始めたいと思うのだが……。――デューイ、実は君に一つ頼みがあるのだ」


「ぼくに頼み、ですか? 一体何でしょう?」


 きょとんとした様子で、デューイさんがエノク君に尋ね返す。

 その疑問への答えとして、エノク君は頭を下げつつこう言った。


「どうかもう一度だけ、この見習いにチャンスをくれないだろうか」


「デューイさん、私からもお願いいたします。詩織さんが一晩かけて考えたアイデアは、我々の想像を遥かに超えるものでした。お聞きになるだけの価値があると思います」


 エノク君に続き、立川さんもデューイさんへ頭を下げる。

 二人の言動を見聞きして、わたしはさっきエノク君が止めた理由がようやく理解した。

 二人はわたしの上に立つ者として、わたしがレファレンスを続けることへの筋を通したのだ。失敗して躍起(やっき)になった新人(わたし)の独断専行ではなく、この図書館の総意としてわたしのアイデアを支持している。そのことを示すため、二人はわたしに先んじて、デューイさんへお願いしたんだ。

 不甲斐(ふがい)ないわたしのためにそこまでしてくれた二人に感謝しつつ、わたしも自分の思いの丈をデューイさんにぶつけた。


「デューイさん、不躾(ぶしつけ)なお願いだということは私もよくわかっています。でも、どうかわたしにリベンジの機会をください。――お願いします!」

 

 二人と同じようにわたしも誠心誠意、デューイさんへ頭を下げてお願いする。

 そんなわたし達を、デューイさんはつぶらな瞳で見回し……、


「わかりました。――詩織さん。引き続き、レファレンスをお願いします!」

 

 ふわりと微笑んだまま、そう答えた。


「ふえ?」


 デューイさんの回答を聞いたわたしは、顔を上げて()頓狂(とんきょう)な声を上げてしまった。驚きのあまり、デューイさんが言ったことをすぐに理解できなかったのだ。

 でも、デューイさんの笑顔を見て、ようやくレファレンス続行を承諾(しょうだく)してくれたのだと悟った。


「ほ、本当にいいんですか? わたしが引き続きレファレンスを行っても……」


 ただ、わたしはそれでもまだ実感が持てなくて、確認の言葉を(つむ)いでしまう。

 そうして確信が持てないでいるわたしに、デューイさんはもう一度優しく言い直してくれた。


「もちろんです。詩織さんのアイデア、ぜひ聞かせてください!」

 

 デューイさんの言葉を聞き、わたしの表情が驚きから喜びに変わる。

 今度こそ……間違いない。

 わたしはもう一度、デューイさんにレファレンスをすることができるんだ!


(よかった。本当によかった……)


 思わず心の中で、安堵の息をもらす。

 実はデューイさんが来るまで――ずっと不安だった……。

 もうデューイさんは、わたしにレファレンスを任せてくれないんじゃないか。エノク君と立川さんにアイデアを褒めてもらえたけど、そのアイデアを聞いてもらえないんじゃないかって……。

 でも、デューイさんはわたしにもう一度チャンスをくれた。昨日あれだけ情けないところを見せてしまったわたしを、もう一度信じてくれたんだ。

 これほどうれしいことはない!


「ありがとうございます、デューイさん。わたし、精一杯頑張ります!」


 あまりのうれしさに笑顔がはじける。

 デューイさんの期待、今度こそ応えて見せなきゃ!


「ありがとう、デューイ。我々の頼みを、聞き入れてくれて」


「ありがとうございます、デューイさん」


 エノク君と立川さんも一安心といった様子で、デューイさんに感謝の言葉を贈る。

 それを対面のソファーで聞いていたデューイさんは、おもむろに首を横に振った。


「お礼を言われるようなことじゃないですよ。詩織さんは昨日も、ぼくと文香ちゃんのために精一杯頑張ってくれました。ちょっと空回りしてしまったかもしれないけど、詩織さんが誰かのために一生懸命になれる人だってことは、すごく伝わってきました。――だからこそ、ぼくの依頼は詩織さんにお任せしたいんです」


 そう言ったデューイさんは、そのままちょっといたずらっぽい笑顔になって、エノク君と立川さんにウィンクした。


「それに、詩織さんの上司であるお二人がこれほど太鼓判(たいこばん)を押すアイデアなら、聞かなきゃ損ですよ。違いますか?」


「ああ、きっと君の期待に応えられるはずだ。我々が保証する」


 デューイさんの言葉に、エノク君も自信を持って首肯する。デューイさんはエノク君に頷き返し、改めてわたしの目を見た。

 その眼差しが、(またた)く間に真剣なものへと変わる。


「じゃあ、詩織さん。早速、教えてもらえますか。文香ちゃんに元気を出してもらうための本を……」


「わかりました。――この本がデューイさんの依頼に対する、わたしの答えです」


 わたしは言葉とともに、一冊の本をテーブルの上に置いた。デューイさんが来る前に、急いで探しに行ったものだ。


「ええと、これはどういった本なのでしょうか?」


「この本は……」


 この本がどんな本であるか、この本を使って何をやりたいのかを、デューイさんへ丁寧に説明する。

 その説明へ、時に相槌(あいづち)を打ち、時に質問をはさみながら、デューイさんはひたむきに聞いてくれた。


「――という感じなのですが……。如何でしょうか、デューイさん。これで、文香ちゃんの元気は出ると思いますか?」


 話すべきことを話し終え、わたしはデューイさんの様子を窺った。

 わたしにできる限りのことはした。後は、デューイさんがこのアイデアをどう思ってくれるかだ。

 ドキドキしながら、デューイさんの言葉を待つ。

 そしたら彼は、わたしの前でうれしそうに顔をほころばせた。


「どうもありがとうございます、詩織さん。ぼくと文香ちゃんのために、ここまで考えてくれて」


 デューイさんがお礼を言いながら、わたしの手をその丸い両手で包み込んだ。

 デューイさんの手の柔らかさと確かな温もりが、わたしの手に伝わってくる。


「そ、それじゃあ……」


「はい! こんな素敵なアイデア、他にありません。ぼくもこれなら、文香ちゃんを元気づけることができると思います。詩織さん、ぜひこのアイデアを使わせてください」


 笑顔で満足そうに言うデューイさん。

 彼の表情に釣られ、わたしも力強く笑って頷いた。


「わかりました! わたし、全力で頑張ります!」


「――話は決まりましたね。それでは、細かい段取りを決めましょう」


 デューイさんからの同意が得られたところで、事務的なやり取りをするために立川さんが話に加わる。

 立川さんはデューイさんに意見をもらいながら、テキパキとスケジュールを立ててくれた。

 やっぱり、立川さんはすごいや。わたしでは、こんなにテキパキと色々決めることはできないもん。

 立川さんの的確なプランニングのおかげで、計画は細かい部分まで、あっという間に決まってしまった。


「館長も、この予定でよろしいでしょうか?」


「ああ。問題ない」


 立川さんが確認すると、エノク君も満足そうに承認した。

 よし! 館長のお墨つきももらった。これで、計画を実行に移せる!

 何だろう。いろんなことが動き出した所為か、とってもワクワクしてきた。まるで心が躍り始めたかのようだ。


「それじゃあ、名付けて『文香ちゃんを元気づけよう大作戦』、開始です!」


「何だ? そのセンスのない名前は……」


「いいじゃない、エノク君。わかりやすさ重視だよ。それじゃあ皆さん、文香ちゃんのために頑張りましょう!」


 みんなを鼓舞(こぶ)するように、わたしは大きく声を張り上げるのだった。



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