レファレンスNo.1 1-1
五月中旬。別れと出会いの季節を越え、学校全体の雰囲気も落ち着きを見せる頃。
わたしこと神田詩織は、小等部六年生になって最初の難関にぶち当たっていた。
難関の名前は――実力テスト。日々の学習成果を試すという名目のもと、わたし達を苦しめる憎き敵だ。
しかも、今回は各教科のテスト時期が重なったこともあって、理科、国語、算数、ついでに音楽の歌のテストが一気に襲いかかってきたのだ。
わたしはこの難敵へ、果敢に立ち向かった!
しかし、その圧倒的な破壊力の前には、わたしの力など無きに等しいものだ。
為すすべもなく打ちのめされ、わたしは膝を屈しかけた。
……いや、正直に言えば、限界なんてとっくに超えいていたと思う。
しかし、天はわたしを見捨てなかった!
ヤツの猛攻に屈しかけていたわたしの耳に、奇跡の音色が届いたのだ。
――そう。それはテスト終了を告げる、チャイムの音!
かくして、わたしとヤツの戦いに、明日の一時間目までという、つかの間の休息が訪れたのだった。
* * *
「あ~、やっと終わった~」
テストが終わったことに安心し、机に突っ伏す。
もうダメ。動けない……。
そんな風にわたしが国語のテストの猛攻により撃沈していると、一人の女の子が労いの言葉をかけてくれた。
「おつかれさま、詩織ちゃん」
「ああ、葵ちゃん。おつかれ~……」
彼女の名前は、清森葵ちゃん。一年生の頃からの友達で、気心の知れたわたしの大親友だ。
ふわふわした猫っ毛のわたしとは違い、長くてサラサラの髪。雪のように白くてきれいな肌。雑誌のモデルやテレビの子役さん並に整った顔立ち。ちんちくりんのわたしでは逆立ちしても敵わない、完璧美少女なのです!
その上、清楚さを感じさせる雰囲気をまといながらも、性格はとっても気さくで超優しい。
まさに『才色兼備の優等生』という呼び名が似合う女の子。それが、葵ちゃんだ。
無い物ねだりということはわかっているけど、わたしも葵ちゃんみたいになりたいな、っていつも思う。
わたしにとって葵ちゃんは、無二の親友であり、目標とも言える憧れの存在なのだ。
「連続テストも残すところ、あと一日。頑張ろうね、詩織ちゃん!」
「あう~、まだ一日残ってるよ~。先生も、テストをやる時期を分けてくれればいいのに~」
「ほらほら、そんな声出さないで、いっしょに明日も頑張ろう。ねっ、詩織ちゃん」
机に突っ伏して弱音を上げるわたしを、葵ちゃんが明るい声で元気づけてくれる。
「――あっ、そうだ! 今度の日曜日、テストの打ち上げがてら映画でも見に行こうか。この間、詩織ちゃんが『すごく見たい!』って言ってたやつ。後に楽しみなことが控えていたら、きっと明日のテストも頑張れるよ」
そこで最後のダメ押し。葵ちゃんがいいことを思いついたという表情で、そう提案してくれた。
ふう……。
葵ちゃんがここまで言って、元気づけてくれたんだもん。もう机に突っ伏してなんかいられないよね。
よし! そろそろ気分を入れ替えよう!
「そうだね! よーし。あと一日頑張って、すっきり気持ちよく映画を見に行こう! えい、えい、おーっ!」
「うん。それでこそ、詩織ちゃんだ」
こぶしを突き上げながら体を起こすと、葵ちゃんがニッコリと笑いかけてくれる。
相変わらず、かわいいなぁ~。
もしもわたしが男の子だったら、きっとこの表情一つで、葵ちゃんに恋してしまっていたことだろう。
もちろん、今のままでも大好きだけどね!
「今日は私、もう帰ることにするけど、詩織ちゃんはどうする? いっしょに帰る?」
「ううん。今日はわたし、図書室に行って、明日のテストの勉強していくつもりなの。だから、先に帰ってて」
はずかしい話だけど、わたしは家だと勉強に集中できないんだよね。
なので、今日は学校の図書室でテスト勉強していこうと考えていたのだ。
「そっか。それじゃあ、また明日。テスト勉強、頑張ってね」
「ありがとう! バイバイ、葵ちゃん!」
葵ちゃんがかわいらしく手を振りながら、教室から出ていく。
わたしもまるで犬が尻尾を振るようにブンブンと手を振り返して、葵ちゃんを見送った。
「さてと! わたしも図書室に行って、勉強しなきゃね!」
ここで座っていても仕方ない。
教科書を詰めたカバンを手に持ち、わたしもさっさと教室を後にするのだった。




