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ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.1 見習い司書、初めてのレファレンス
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レファレンスNo.1 6-2

 かえでさんが再びソファーに(こし)かけ、わたしと立川さんもかえでさんとは反対側のソファーに座る。

 エノク君はソファーに座らず、壁に寄りかかった。

 準備万端! いよいよお仕事スタートだ!



 ――と、その前に……。



「ちなみに、どこまでお話が進んでいるんですか?」


 横にいる立川さんの方を見て、尋ねてみる。

 かえでさんが閲覧室に来たのは私が来るより前だったし、現状確認は大切だ。


「安心してください。かえでさんが来館されたのは、詩織さんが来る直前のことです。詳しいお話を(うかが)うのは、これからですよ」


 わたしの質問に、立川さんは小声でそう教えてくれた。

 おお! わたし、本当にベストタイミングで図書館に来たんだ!


(いや~、良かった。どうせ体験するなら、最初からちゃんとやっておきたいしね)


 などと、わたしが喜んでいる間に、立川さんがかえでさんに向かって話し始めた。


「いろいろとお騒がせして、申し訳ありませんでした。それでは、お話を再開させていただきますね。――かえでさん、本日はどのようなご用件で来館されたのですか?」


 立川さんが温和(おんわ)な笑みを浮かべて、かえでさんに問いかける。

 立川さんの表情や話し方を見聞きしていると、何というか安心して話ができる気がするんだよね。

 親しみやすい雰囲気があるというか、何というか……。

 これがプロの技なのかな?


「はい。――私が今日ここに来た理由、それは生きていた頃の記憶を思い出したいからです」


 立川さんの問いかけに、かえでさんが答える。

 なるほど、なるほど。かえでさんは、生きていた頃の記憶を思い出したいのか……。

 ほうほう……。



 ……………………。



 ――へ?



「生きていた時のことを思い出したい、ですか? えっと、それはどういう……」


 わたしがきょとんとしたまま聞くと、かえでさんは少し(うつむ)いたまま話し始めた。


「はい……。――実は私、自分がどうして幽霊になってしまったのかわからないのです。気がついた時にはもう幽霊となっていて、自分のお墓の前に立ち尽くしていました。覚えていたのは、自分の名前だけ……。自分がいつから幽霊をやっていたのかさえ、思い出せないのです」


「なるほど。――つまり、生きていた頃の記憶(きおく)が戻れば、なぜ幽霊になってしまったかもわかるかもしれない、ということですか」


 立川さんがメモを取りながら尋ねると、かえでさんも頷きながら答えた。


「その通りです。私が幽霊になった理由は、生前の記憶の中にきっとあると思うのです。それを知ることができれば、もしかしたら成仏(じょうぶつ)する方法もわかるかもしれません。――でも、私一人ではどうしようもなくて……。打ちひしがれ、途方にくれていた時、ここへの扉が現れたのです」


 かえでさんが一度、閲覧室の入り口を振り返りながら言う。

 だがすぐに視線をわたし達の方へ戻し、かえでさんは話の続きをし始めた。


「扉に()れた瞬間、ここがどのような場所かわかりました。ここなら、私に自分を取りもどさせてくれるかもしれない。そう考えた私は、(わら)にも(すが)る思いで扉をくぐったのです」


 自分が何者かもわからない恐怖、苦悩(くのう)。かえでさんの言葉からは、それらの感情がにじみ出ていた。


 それに――よくわかった。彼女にとって、この図書館は最後の希望なのだ。


 このレファレンス、絶対に失敗できない。

 何としても、かえでさんが思い出を取り戻せるような本を探し出す!


 そんな風にわたしが決意を新たにしていると、横にいた立川さんが口を開いた。


「ご事情はわかりました。――それでは、この図書館の本を使って、あなたが記憶を取り戻すお手伝いをさせていただきます」


 かえでさんの願いをかなえたいという思いは、立川さんも同じだったようだ。

 立川さんはかえでさんを安心させるように、優しく微笑みかけた。


「それでは、私と詩織さんで、あなたに提供する本を探して(まい)ります。かえでさん、少々お時間をいただいてもよろしいですか?」


「はい。時間はいくらでもありますから……。どうかよろしくお願いいたします」


 かえでさんが、丁寧(ていねい)に頭を下げる。

 礼儀作法(れいぎさほう)をしっかり(たた)き込まれた人がするような、とてもきれいな一礼だ。

 かえでさんって、やっぱり良家のお嬢様?


「お任せください。それでは行きますよ、詩織さん」


「了解です、立川さん!」


 元気よく返事をするわたしに頷き返しながら、一度カウンターに入った立川さん。

 カウンターの下へ(もぐ)り込むようにかがんだかと思ったら、丸めた大きな布と小さな巾着(きんちゃく)(ぶくろ)を取り出してきた。

 ……あれ、何に使うんだろう? 後で聞いてみようっと!


(――って、そういえば! わたしと立川さんが席を外すってことは……)


 その時、わたしはふと大事なことに思い至った。

 善は急げとばかりに、すかさず壁に寄り掛かったエノク君へ声をかける。

 

「エノク君! わたし達がいない間に、かえでさんを泣かせるようなことしちゃダメだよ!」


 エノク君へ注意するように言い聞かせる。

 するとエノク君は、「はあ……」と溜息をつきながら、面倒くさそうにわたしを見た。


「お前は、オレを何だと思っているんだ……。お前じゃあるまいし、利用者に対してそんな失礼なこと、オレがするわけないだろう」


 エノク君の言う通り、さっきわたしは、かえでさんに対して大変失礼なことをしてしまった。そのわたしがこんなこと言うのも、お(かど)違いではあるけれど……。


「でもエノク君、わたしが初めてここに来た時、かなり失礼な態度(たいど)をとってきたじゃん」


「それは、お前の時が特別だっただけだ。本来、司書が席を外している閲覧室に、利用者が入ってくることはないのだ。なのに、無人の閲覧室ではしゃぐ(やから)がいたら、不審(ふしん)に思って疑いの目の一つでも向けたくなるわ」


「うぐっ! そう言われると……」


 返す言葉もありませんです、はい……。


「まあ、忠告は有り難く受け取っておこう。だから、お前もさっさと行け。『利用者を待たせぬよう、努力せよ』だぞ」


「了~解」


 と、わたしがエノク君に返事をするのと、ほぼ同時。


「では、行って参りますね、かえでさん、館長」


 本を探しに行く準備が整ったのだろう。

 シッシッ、と追い払うように手を振るエノク君と微笑むかえでさんに向かって、立川さんが一礼した。


「じゃあ、わたしも行ってきます!」


 置いて行かれては大変。

 わたしも立川さんに(なら)って二人に一礼した後、書庫への扉をくぐった。


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