プロローグ
誰が何と言おうとも、この作品はファンタジーです(笑
・プロローグ
学校の情報処理教室のPCに一人の女生徒がいる。
躊躇いがちにキーボ-ドを叩いてはため息をつき、一つ作業をして、またため息をつき、を繰り返す。ちらちらと、入口に真っ黒に染まった窓枠の暗闇を気にして。
そしてようやっとのことでメガネをかけ直し、すっかり冷めたココアを一口含んでから手をキーボードに這わせる。それを心が決まった合図として、一気に作業が進み始めた。集中した彼女は、大きな空間の寂しさも、廊下に時折聞こえる靴音も、心から追いやっているようだった。
やがて。幾つかの単語を入力して一息。枠線を作って一息。
精一杯可愛く書いたイラストを添付して一息。震えながら、天を仰ぎ、目をつむっても尚射し込む人工の光に向かって息をついて呼吸をする。それをひとつ、ふたつ。
合間に挟む。誰に言うというわけでもなく、むしろ自分に暗示をかけるように、言い聞かせる言葉。
「これで、オーケー。間違いない……うん」
、という……。
最後に、出来上がり彩られた一つのページをじっと、じっと見つめて口に手をやり、メガネに手をやり、おさげにした髪に手をやり、そして指をエンターに。
タン、という軽い音が鳴る。ページは保存され、女生徒はプログラムを終了させた。
うぃーんと鳴る冷却ファンの音は耳に触るほどうるさい。
沢山のパソコン。一人が使うにしては明るすぎる照明と、すっかり暗くなって真っ黒になった窓の景色。
この世界はモノトーンで出来ている。そんな錯覚を引き起こす明と暗の極端で、色味のない周囲を見ると、誰でも不安な気持ちにかられてしまうだろう。
女生徒は、祈るように手を絡ませ、冷えてしまったのであろう、指先をさすった。
季節は桜の咲く四月。新学期、春、柔らかで世界にもう一つのでこぼこを加えるような、色の濃淡の出来上がる時。
なのに、すっかり冷えた指先はいくらさすっても暖まらない。震える体を押さえるために、ずっとずっと腕を抱いて、女生徒は校舎から滑り出た。
現実というか時間は残酷ですね。
あらそうそうてちりぬ、とは全く意味のない単語です。古語でも隠語でもありません。意味のないものに、必死で意味を求めることの……面白さというか、なんというか。ついつい考えてしまう語感を目指しました。