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第一二話

護衛兵、勇を持って賊を掃う。オトラント公、只一言、至誠の言葉を告げんと発す。

インペリウムの軍制は、基本的には志願制を基軸とした職業軍人に依る。

長年の拡張政策は必然的に、長期の従軍を前提とする軍事計画を伴わざるを得ない。

必然的に、自弁で従事する市民兵らでは軍制を維持しえずに、インペリウムは常に動員しうる常備兵を欲した。


その結果が、志願制軍人らによる常備軍である。

ただし有事に限ってではあるが、辺境の最前線ではリメス居住のインペリウム市民に対し武装したうえでの従軍を要請する。

古き良き伝統に基づく、市民兵による都市の防衛。

そもそも、都市とは一定の自衛力を持つことを前提に交通の要衝に設けられた軍事的拠点でもある。

防衛の要衝に、基本的には退役兵からなるリメス居住の市民らを防衛目的で動員。

これらの軍事的防衛線を整備することによってのみ、インペリウムは数的劣勢の正規軍でもリメスを維持してきた。


言い換えれば、リメスはその定数以上の戦力を初めから制度として盛り込まれた重厚な防御施設群である。


当然、それは帝国全般に共通するシステムでもある。

軍団が駐屯する基地周辺には、必ず退役兵士らが入植した開拓地が付随するもの。

つまり、職業軍人らとて市民なのだ。

彼らは、退役後に自らの財産である土地を付与される。

無論、一方で有事には動員されるというものだがその為の権利として彼らには開墾した土地の免税が一代ながら認められている。


もっとも、軍事力確保と労働力活用を狙った制度も久しく活用されているために制度設立時には想定していない現象も生じていた。

例えば、未開拓地の減少だ。

帝都周辺に限っては開拓が完全に進んだ結果として未開拓地が枯渇。


希望する者には、新たに属州の土地が割り振られるが希望しなければ帝都で商売を始めることとなる。

無論、かつての経験と人脈をフルに活用しての商売だ。


其処においては、傭兵稼業というものも需要があるだけにそこそこ繁盛する。

最も、大半は傭兵といっても警備兵や護衛のような仕事が多い。

リメスの内側で、武力集団を必要とするほどインペリウムの情勢は悪くないのだ。


そもそも、リメスによる安全の提供は帝国を統べるインペラトルにとって最大の義務ですらある。

なればこそ、本格的な武装集団としてではなく信頼できる護衛としての傭兵団がインペリウムでは求められる。

早い話が、腕っぷしの強いごろつきよりも、遥かに信頼できるプロの警備要員だ。


オルシーニ傭兵団も、そんな私兵に近い傭兵団の一つ。

後ろめたい稼業というよりは、商人や法衣貴族らの護衛に従事する信用第一の傭兵団だ。

退役軍人らで編成され、当然のように高い職業意識と古強者の技量を備える護衛の専門家でもある。


そして、彼らは前評判通りの実力を発揮していた。


視察と編成のために駆けずり回っている討伐司令官のヴェルター皇子。

彼が襲われたのは、駐屯地へ向かう途上の帝都郊外。

首都の警邏を司る首都の部隊と、駐屯地警備部隊の管轄が途切れる微妙な境界線。


軽騎兵らだけを連れて、道を飛ばしていたヴェルター皇子らの一行を襲った襲撃者は実に狡猾だったというべきだろう。


対騎兵戦の経典通り、馬の足止めを狙った障害物として馬車を倒しての街道封鎖。

一瞬、事故を装いその実近づいてくる軽騎兵へ伏兵らが一挙に切りかかってくる手際の良さ。

これで、護衛が不慣れな兵ならば其方に気を取られた隙に第二陣の伏兵がヴェルター第四皇子の首を取っていただろう。


だが、東方の砂漠戦で奇襲されつくした経験を持つオルシーニ傭兵団はさすがに練達の経験を発揮。

対向からやってくる馬車が不自然に横転した瞬間には、咄嗟に馬首を翻し急速離脱を開始。

させじと、襲撃者らによって後方が遮断されるや、即時に騎乗戦を断念。


主要街道であること、巡視隊が定期的に巡邏していることを思えば襲撃者らが短期決戦を欲することを見越し騎兵らを歩兵に転換。

元より、主力たる軍団兵上がりだ。徒歩戦とて手慣れたもの。

円周防御陣を組みつつ、括り付けておいた盾を各自が防壁代わりに展開。

ついでに、欲をかいた襲撃者が馬を追って散ってくれれば御の字。


単なる物取りならばここで引く筈だった。

身代金目的の、蛮族らでさえ損益計算を行って去ることだろう。

誰だって、がっちりと防御を固めた重装歩兵の防御陣に突撃したいという数奇な盗賊もいない。


しかし訳ありの護衛だ、そこで油断するわけにはいかなかった。


だから、オルシーニ傭兵団は油断なく円陣を固めつつじりじりと移動。

街道脇の小高い丘で全周囲防御を試みるべく動く。


だが、そのもくろみは耳の良いベテランらの愕然としたような声で白紙と化した。

驚愕する彼らの眼に写るは、4騎の超重装騎兵が猛然と突っ込んでくる姿。


「馬鹿な!クリバナリウス!?」


「長槍だ、長槍を出せ!早く!」


馬を放したのは、本来であれば脆弱な軽騎兵としてではなく防御しやすい重装歩兵として対処するため。

だが、そもそもオルシーニ傭兵団が想定している襲撃者は最高でも軽騎兵程度だ。

間違っても、インペリウム正規軍ですらわずかにしか配備されていない超重装騎兵の相手など考慮されていない。


馬にすら重装甲を施し全身重装甲で覆い尽くしたクリバナリウスの突撃というのは凶悪極まりない突破力を持つ。

だが、その反面重すぎる装甲によって人馬ともに瞬く間に疲弊し尽くす代物だ。

本来ならば、運用コストと運用そのものの難しさから東方の大規模会戦程度でしかお目にかかることのない兵種でもある。


それこそ、弓騎兵で射撃戦に徹するか、大規模な長槍兵部隊で槍衾でも組まない限り突撃を阻止するのは不可能に近い。


「散開!混戦に持ち込め!」


したがって、指揮官はまともに組み合うことを不可能と判断。

咄嗟に、彼は部隊を足止めと安全確保の二つに分けることを決断する。


「殿下を逃がす!アルトフ!貴様の隊で殿下を!後は、足止めだ!」


だから、気の利く部下に殿下の護衛を命令。

後は、混戦に持ち込むことを前提にした部下らで重装騎兵を仕留めることを決意する。

知らねば対処に苦労するだろうが、重装騎兵の突撃は助走距離と体力あっての代物。

一度かわし、混戦に持ち込めばさしたる脅威でないことを彼は東部の経験で知っている。


故に、彼らは敢えて損害覚悟で咄嗟に散会。

獲物が散らばり、的を外した騎兵が勢いを殺しきれないところに投槍なり近接なりで騎兵を仕留めるべく手を動かす。


その間にも、安全確保を命じられた連中は全力で盾をかざしながらヴェルター皇子ごと丘陵地へ移動。

馬では駆け上がりにくいだろう坂を懸命に駆け上り、同時に周囲に油断なく槍を構えながら円周陣を構築。

同時に、一部の気の利いた連中が矢避け代わりに水をぶちまけたマントにでもって盾を覆う。

万が一ではあるが、火攻めを想定した防御を整える男たちは、本気だった。


クリバナリウスまで出してくる相手だ。

火矢程度撃ってこないと考えたならば、文字通り大火傷しただろう。


だが、幸いにも襲撃者らにとっては不運なことにオルシーニ傭兵団は戦慣れした実戦にすら耐えうる傭兵団だった。

軍団兵上がりの連中でも、特に過酷な東部の砂漠戦を経験した軍団兵ら。

インペリウムの暴力が先鋒を担ってきた彼らは、犠牲を払いながらも重装騎兵とすら数さえそろえば拮抗しうる。


何より、彼らにしてみれば東部で襲いかかってくる化け物のじみた騎乗技術の遊牧民とすら戦っているのだ。

幸いにして、突撃をいなしたクリバナリウス相手ならば咄嗟に馬を狙うことくらいは平然とやってのける。


後は、重くて身動き一つとれない装甲に囲まれたウスノロを解体するだけだ。

護衛の装備は元々乱戦を想定してのインペリウム式軍装。

迎え撃つ彼らにしてみれば近距離での削りあいはなれたもの。


なにより、襲撃してくる蛮族と思しき軽装歩兵程度ならば乱戦だろうとも十二分に戦えた。


「殿下!ご無事ですか、殿下!?」


だから、彼らにしてみれば想定外の事態にあっても最悪の事態だけは避けられた。

襲撃者らを斬り伏せながら護衛対象に駆け寄る男ら。

だが、彼らにあるのは、最大限に警戒してほしいと念には念を押された言葉を軽んじていたのではないかという後悔だ。


「バルメトロス隊長か、助かった。礼を言う。」


散々、心配性のオトラント公爵が五月蠅く説くので雇い入れた警備要員ら。

実際のところ、宮中で無視されてたが故にヴェルターは暗殺の危機を差し迫った危機として理解していなかった。

それ故に、窮地にあってなお手際よく襲撃に対応した護衛らをヴェルターは高く評価している。


よくぞ、やってくれた、と。


「いえ、ご無事でなりよりです。」


だが、オトラント公爵から状況を説明されて雇い入れられたオルシーニ傭兵団にしてみれば話が別だ。

彼らは陰謀を企む側ではないが、陰謀の手先が襲ってくるタイミングは経験則として知っている。

故に、オトラント公爵なる人物の危惧がきわめて真っ当であることを容易に理解しえた。


外傷らしき外傷が護衛対象にないことに安堵しつつも、バルメトロスは心中盛大に頭を抱えたいほどの気分に陥る。


提示された報酬が巨額であることを理解し、それ相応の人員と装備で乗り出した。

実際、彼らはプロとして提示された報酬に恥じない働きぶりを為していたといえるだろう。

すでに細かい案件で2度ほど不審な侵入者を離宮で斬り捨てている。


それ相応の警戒と情報収集。

並大抵の襲撃者ならば、近寄ることすら覚束ないであろう護衛を常時ヴェルター第四皇子の近辺に構えたのだ。

それは、本来の依頼主であるオトラント公爵がほとんど執拗なまでに要求してきたことを踏まえての用意だ。


だが、だからこそ執拗な悪意を彼らは感じざるを得ない立場でもあった。

何処からともなく悪意の手がクライアントに伸びるのをヒシヒシと実感していたのだ。

余程の案件であるとは覚悟していたが、それだけに襲撃者の決意と覚悟のほどを読み違えていたことを彼は悟っている。


外出中のヴェルター皇子を襲った傭兵崩れに襲撃者らを迎え撃てたのは警戒していればこそだった。

その意味においては、彼らは文字通りプロの護衛者としての義務を十二分に果たしている。

逆に言えば、相手に手段を選ばずに襲撃させるような状態に陥ったのだ。


そして、それでありながら迂闊にも通常の襲撃者程度を想定した護衛でうかうかと郊外に出向く始末。

考えてみれば、討伐軍指揮官である第四皇子のスケジュールがどこから漏れても不思議でないのだ。

せめて、郊外に出るときは正規の騎兵による護衛をつけるべきだった。

最低でも、事前に駐屯地から迎えの兵を出してもらうべきなのだ。


そもそも、本来の護衛というのは襲撃されないように努めるべきもの。


「狼煙を上げろ!駐屯地の軽騎兵が駆け付けるまで、円周防御!」


だから、せめてこれ以上のリスクを冒す前にバルメトロスは最善を尽くす。

急遽、木材も道具もない状況ながらも野営を決断。

残った騎馬で数騎を帝都と駐屯地に走らせ、同時に狼煙を点火。


手際良く、咄嗟の対応を命じながらも心中を占めるのははしてやられたという思いだ。


襲撃されないよう、事前にルートを警備し、情報を収集し、そのうえで安全な経路を確保するのが護衛である。

実際、無能な傭兵団や悪質な傭兵団というのは襲撃を受けて防衛することで腕を売り込むことがあるがそれは正しい姿ではないのだ。

本来の護衛というのは、襲撃を追い払う以上に襲撃されるリスクを減らすことに全力を注がねばならない。


護衛が切り結んだあげく、超重装騎兵に突入されるなどあってはならない醜態だ。

まさか、よりにもよって超重装騎兵が出てくるとは思わなかったなどというアホな言い訳はなし。

散々ありとあらゆる可能性を考慮して、護衛してほしいと懇願すらしているオトラント公爵なる人物。


彼は、言ったではないか。


『どうか、どうか殿下を悪意からお守りいただきたい』と。


それこそ、懇願すらしかねない勢いで彼は護衛を依頼しているのだ。

間違っても、想定外の事態で護衛対象を守りきれませんでしたなどと報告すれば自分たちの評判は地の底にまで落ちることだろう。


「息のある糞どもを集めろ!どこの手の者か吐かせるぞ!」


故に、せめて。

無駄だろうと思いつつも、叶う限りの情報を集めるために彼は襲撃者の検分を命じる。


いや、無駄でもないかもしれない。

なにしろ、目立つことこの上ないクリバナリウスを4騎も仕留めたのだ。

解体した鎧や、武具、それに人相の残っている首があれば後を追うことは可能だろう。


恨みはないが、仕事だ。


彼らは、誓う。


絶対に、オルシーニ傭兵団にふざけた真似をしてくれたつけは払わしてやると心中に誓う。












「…なんだ、やればできる子じゃないか。」


封鎖されつつある道路網と、抑えられた通信使関連施設。

帝都に対し、反旗を翻してなお整備されているインペリウムの施設は全力で稼働している。

意味するところを探るため、さりげなく覗き込んだフーシェは思わず感心して呟いてしまった。


忙しなく用意されている変え馬から察するに、ガリア方面から多数の軍偵が出されているのだろう。


さて、これまでのフーシェ氏の旅路は順調そのものだった。

整備されたインペリウムの街道は、叛乱が起きようが起きまいが帝都に通じている。

当然、逆もまた真なりでガリアまでの街道はきちんと整備された道が通っているのだ。


それ故に、軽やかな足取りで帝都下りの行商人らの一団に紛れフーシェは一路ガリアへ進めた。

途中、商人らと養豚の収支や売り込み先についての情報を交換する有様は完全な商売人のそれ。

誰よりも商人らしく、手際よく小さな商談すらまとめる彼の素性を疑う者もいない始末。


いや、無理もない話だ。


なにしろ元老院議員にして、内務大臣であり、かつ国王陛下の忠実なる僕、オトラント公爵は商売人である。

売ろうと思えば、豚を売ることもできるし、市場を読んで情報を売ることなぞ朝飯前。

その気になれば、昨日までの同僚・同志・上司までもを明日からの仲間に涙を呑むことを条件に高く売りつけられるベテランの商売人。


物の売り買いと、市場の動向に関する敏感さは練達の商人のそれすら凌駕するのだ。

だから、彼は誰からも怪しまれることなく極々まっとうなルートでガリア入りする。


そうして、のんびりとした商人らに行商人として紛れ込んでいるフーシェの眼に飛び込んできたのが眼前の光景だ。


多数の警備兵らからなる関所と、封鎖されている街道。

まあ、本格的な遮断ではなくせいぜい通行妨害と密使の移動阻止程度が目的なのだろうが手際の良いことだ。


おそらくは、帝都情勢を探るため。

そして、一方では帝都内外の反応を探るためだ。

帝都以外の属州らに密偵を放つくらいのことはしていてもおかしくない。


「まったく、堅実な人柄とは言ったもの。愛おしいほどだ。」


少しばかり笑みを浮かべながらフーシェは、ぼそりとつぶやく。

肩の荷を担ぎ直すと、何処にでもいる篤実な行商人マシューの出来上がりだ。

にこやかな笑顔の仮面を被りながら今晩の宿へ足を延ばす。


それも、商人らの話題から仕入れてきた定番の宿へだ。

誰からみても、ごくごく自然な足取りで彼は、商人らの集う宿へと足を向ける。


その途中、商売人らしく露店を眺めながら価格相場にすら目を向けている姿を見れば誰だって彼を商人だと信じるだろう。

仮に、誰かがこのマシューなる男を疑い監視したところで敏腕の行商人と確信するしかない。

何しろ、彼は監視する側の心理というものをこれほどまでにないほど理解しているのだ。


というよりも、フーシェ以上に監視する立場の人間の心理に精通している人物はインペリウム広しといえどもちょっと居ないだろう。


極々自然な素振りで擬態するのではなく、完全に商人として行動することを心がけているフーシェの仮面は分厚い。


道中、旅費を無駄にしないために仕入れてきた皮やちょっとした装飾品。

それらを売りさばくために、フーシェは露店の市場価格を熱心に調べているのだ。

だが、熱心かつ有能な商売人の仮面の下でフーシェは予想通りの展開を確信していた。


思った以上に皮革製品が売れるのだ。

このことを考えると、やはり軍備拡大は急激に進んでいるのだろう。

矢の鏃でも、仕入れてくれば存外売れたかもしれないなとも感じる。


仮に、次の機会があればと気に留めつつ行商人の嗜みとしてマシューは覚書に売れ筋になりそうな商品を書き込む。


旅の覚書と、ちょっとした仕入れの記録。

延々続いている其れは、見る者がみれば行商人としてのマシューを理解するだろう。

手堅いインペリウム商人であることを、その手帳は理解させるに十分だ。


そして、それこそがフーシェが見せつけたい商人としての仮面に最もらしさを付与する。


同時に、軍事情報の収集・分析の参考資料として物価をフーシェは重視する。

忌々しいが、有能なボナパルトの大規模遠征や大陸封鎖で散々経済と社会情勢の問題に付き合わされた経験。

それらをもってして、フーシェは社会情勢と物価から、大よその情勢程度は読み解ける技能をもつ。


極々当たり前のことだが、戦争前には飼料と軍馬、それにもろもろの物価が連動して跳ね上がるのだ。

人道主義と、人民による統治によって革命を前進させることで公平な社会を構築する運動でも行っていない限り絶対に、だ。


だから、常識的にガリア総督府が叛乱の準備を行っているという確信はフーシェを歓喜させるに十分だ。





ああ、きっと苦悩しているに違いない。


ああ、間違いなく忠誠と義務と、国家への奉仕で彼らは嘆き苦しんでいることだろう。

可愛そうに、さぞかし心地よい苦吟の音を流しているに違いない。

叛乱の備えは、彼らにしてみれば已むに已まれぬ次第だろう。


さぞかし、躊躇しながら恐る恐る剣に手を伸ばしているのだろう。

ついぞ、剣を握りたるを決断したがらないクレトニウス総督閣下。

剣を握りしめ、振りかざしたる所で耳にささやきたるは、希望の一言。


ああ、楽しみだ、

間違いなく、楽しみだ。


真摯に告げてやろう。


殿下は、貴方様の無実を確信為されております、と。


いやいや、勿体ない。

そんな、勿体ないことはしない。

折角ここまで仕込んだ材料だ。


そう簡単に、貪り喰らうほど手間に対する無礼もない。

下ごしらえを行った最高の素材なのだ。

もう一工夫して自らの策謀が、どのように華を咲かすのか期待したいじゃないか。


絶対に、後悔しない楽しみがある。


絶望するだろうか?

殉じようと覚悟を決めるだろうか?

それとも、最後の崖から落ちて自らの名誉を自ら汚すだろうか?


彼の正義は、何処に向かうのだろうか?


是非とも、特等席でそれを眺めたいものだ。

絶望に希望を混ぜた最高のエッセンス。


是非とも、ぜひとも陰謀の滴が何を生み出すか堪能したい。

そのためには、隠し味だ。

そう、ちょっとした隠し味にすべきなのだ。


長々と雄弁に囁くのは、無粋極まる至愚。


たった一言、たった一言でいい。


『信じておられます。』と告げるだけでいいのだ。


優しく、誠実に、愛をこめて告げてやろう。


殿下は、アウレリウス・アントニアウヌス・ヴェルター第四皇子殿下は、クレトニウス総督閣下を信じておられます、と。


久々の更新。色々とご指摘いただいたこともありますが、ひとまずマイペースに更新していく所存。


本作では、どこまでもどこまでも、フーシェさんがフーシェさんとして活き活きと活動為さる作品を目指していこうと思います。俺TUEEE系といって良いかどうかわかりませんが、オトラント公、まじオトラント公。


『過去において最も罪深く、将来においても最も危険な人物』を頑張って描写したいと思います。

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