君の目・僕の歌
アドバイス等あったら
この他の作品でもどちらでもいいです
気軽にください!!
君の部屋で僕は君と一緒に君の好きなアーティストの曲を聴いていた。
「ねぇねぇ、たっくん。
このアーティストの曲も聴いてみて?」
「ん?うん。」
そう言って君は僕に次のCDを手渡した。
僕は再生ボタンを押す。
すると、テンポが早くてかっこいい感じのギターの曲が流れてきた。
「どう?」
「良い曲だね。」
僕はニッと笑って言った。
そしたら、君も笑ってくれた。
「でしょー?
私これ好きなの。」
「そうなんだ。
家でも聴きたいから、今日聴いたCD借りていい?」
「良いよっ!
もっと聴いてほしいもん。」
「ははっ、ありがとっ。」
僕は嬉しそうにCDを受け取った。
でも、正直言って君から勧められた曲の音は、耳障りで僕は好きになれる気がしなかった────
「ここのコードは……こうか。」
僕は家で君から借りたCDを聴きながらギターを弾いていた。
昨日まで掻き鳴らしていたギターはちょっと弾けなくて、君に借りたCDを真似していたんだ。
「あーくそっ。
また間違えたー!」
何度も何度も繰り返し聴いて、CDから流れてくる音を再現する。
何度聴いても耳障りな音だと思う。
でも、それでも俺は頑張って聴き続けた。
ギターを引き続けたんだ。
数日後、僕はギターを持って君の家に行った。
「いらっしゃ〜い。」
「お邪魔しまーす。」
「どうぞ、どうぞ」
君はさも当然のように僕を迎え入れた。
彼氏でもない男をこんなにホイホイ家に入れて大丈夫なのか?と心配に思うほどに…………
彼女の部屋はワンルームで、君はベッドに腰掛け、 僕は床に座った。
「あれ?
ギター持ってきたの?」
「なんとなく。」
「たっくん、弾いて弾いて!」
「オッケー。」
僕は壁に立て掛けたギターを手に取った。
「いくよ。」
ピックを片手にギターを弾き、歌い始めた。
「これって…………。」
君は最初驚いていたけど、真剣に僕を見ていた。
それは当たり前のことだ。
だって、これは彼女の好きな曲を真似しているだけなんだから。
僕は歌い終わり、君は拍手をしてくれた。
「すごいよ、たっくん!」
君はとても嬉しそうにしている。
「そうかなぁ?
あのアーティストの真似しただけなんだけどね。」
軽い感じで言葉を紡いでみても、やっぱり君にほめられるとうれしい。
「ねぇねぇ、もっと弾いて!!
もっと聴きた〜い。」
「……うん。」
僕はギターを弾き始めた。
君の目がずっと僕に向けられていた。
それからはもっと練習して、次から次へと彼女の好きなアーティストの曲を弾いた。
その間、彼女の目は僕に向けられっぱなしだった。
それだけで僕は幸せだった。
でも、やっぱり君に分からないように自分の気持ちを閉じ込めてはいられなかったよ。
溢れだしそうになる気持ちは、コードの中に溢れだしていき────曲になった。
僕はまた彼女の家に向かった。
「いらっしゃーい。」
君は嬉しそうに僕を迎えいれる。
最初はドキドキしていた彼女の部屋も、いつからか慣れた。
「あのさっ。」
「ん、なに?」
「歌、作ったんだ。聴いてくれる?」
「もっちろんっ!」
僕はギターを構え、高なる鼓動を落ち着かせた。
「…………いくよ。」
リズムを取り、僕は歌い始めた。
テンポが早くてかっこいい感じの曲。
君はじっと僕を見つめて歌を聴いてくれている。
君には言えないことがあるけど、君はきっとそれに気付くだろうなって僕は分かってる。
だってこの曲は、他でもない君の目を気にし続けて作った歌だ。
だから、君のその好きなアーティストの曲に似ているだろう?
捻りがない?
魅力がない?
どうぞ罵っても構わないよ。
それでも僕は君の目をこちらへ向けていたくて──────
「────どうかな?」
歌い終わり、僕はそのまま座りこんだ。
「凄いよ!
私こういう曲大好き。」
キザかもしれないが、このときは、君の笑顔が……とても心地よく感じた。
「あっ、そうだ。」
君はベッドから飛び上がった。
「歌もっと作って、CDとか出してみようよ!?」
「へ?
CD!?
無理無理無理無理無理っ!」
突然の彼女の提案は予想外だった。
「たっくんならきっとできるよ。
目指せ、オリコンチャート1位!」
「あはは……。」
君はまるで自分のことのように宣言した。
僕はそれを見て、ただ苦笑いをしているしかなかった。
「(……それでもやってみる価値はあるのかも……。)」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない。」
何ヵ月経ったんだろうか。
僕はたくさんの曲を作った。
そして、今も…………。
「あー、また同じ雰囲気の曲になったなぁ……。」
僕はさっきまで弾いていたギターをベッドに立てかけ、なんとなく外に出た。
行く先も考えず、とりあえず街をぶらぶら歩いた。
「ねぇ、買ったぁ?
拓夢の最新アルバム。」
「買ったよ〜。良いよね〜あの歌。」
すると、二人の女子高生が話しながら通り過ぎた。
今度は数人の中学生が通り過ぎる。
また今度は大学生ぐらいの人。
そして、また今度は30代の人。
さまざまな人が同じ話題を話していた。
それは拓夢の曲についてだ。
十字交差点に行くと、ビルのスクリーンでニュースが流れていた。
『最新ニュースをお届けします。
先日、山村拓夢さんの最新アルバムが発売されました。
拓夢さんの最新アルバムは多くの店ですぐに完売してしまうという、記録的ブームとなっています。
それでは、次のニュースです。』
山村拓夢────それは僕だ。
老若男女、さまざまな人に僕の曲が不思議と流行りだしたみたいで、僕のセンスもまだ捨てたもんじゃない。
それでも僕の曲と似ている、それ以外の曲を偽物にしてしまうようなイカした曲は僕の中には無かった。
だから、今日も同じような曲を弾いちゃおうかな────
他の誰でもない君の目を気にし続けて作ってきた曲たち。
ただただ君の好きなコードを鳴り響かせていたんだ。
〈あれ〉や〈これ〉
比較対象は数えられないほどいるけど、それより君が喜んでくれない────今はもう……君がどこに居るのかもわからない。
そっちの方が僕には耐えられなかった。
正直、期待していたんだ。
自分以外じゃどうにもならないことが在るんじゃないかって。
そんなことは何一つないと思っていたけど、────本当はあったんだ。
たくさんの人々が行き交う道。
僕は隅でギターを持ってたたずむ。
「ああああああああ!!」
僕は空に向かって吠えた。
それは、僕の中で何かが壊れたから。
ひたすらに目を瞑り、昔みたいにギターを掻き鳴らして叫ぶように歌った。
君への想いを、僕自身を言葉にして歌った。
捻りもない、魅力もない、下手なコードをただ繰り返していた。
不意に記憶が蘇る。
君に注目してギターを始めたときの君の笑顔、歌を真剣に聴く君の顔、僕を見つめるその瞳、走馬灯のように巡りめぐって────――――
「────なんか素敵だね、その歌。」
どこからか君の声が聞こえたような気がした。