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トリックス☆スターズ

科学魔導士(2) 〜 トリックス☆スターズ

 トリックススターズ・スプレンデンス。

 それは、マトラ王国の魔戦士組合員達の指標となる煌くべく称号。

 魔戦士組合員達の羨望の的……となるはずだったのだけど、実際にやってる事と言えば、他の魔戦士組合員がやりたがらない仕事の請負いばかりだった。



 わたしは、科学魔導士のクリーダ・ヴァナディン。

 今わたしはジダンと言う組織を殲滅する為、西の果ての村イアトから精霊の森へ入り、徒歩で半日程度の距離にある地下要塞に潜入している。

 精霊の森は、古くから精霊が住む聖地であると伝えられる。その為、人が近づく事が殆どない。ジダンはそれを利用してここに大きな地下要塞を作っていたのだろう。

 大体の場所が特定されれば要塞の場所を見つける事は容易い、人が通った形跡を辿ればいいだけだからだ。

 もちろんこれ程危険な仕事は、魔戦士組合員の依頼掲示板へ出される事もなく、真っ直ぐわたし達へとやって来る訳だ。


 それはともかく、このジダンと言う組織は全国規模の大組織なのだが、組織の人間が一般市民の中に紛れている為に活動拠点が明確にされていなかった。こうして要塞が発見される事は極めて稀なのである。

 組織の目的は、国家転覆だと思われているが詳細は不明。一部では人身売買や市場操作等も絡んでるらしいが、統制の行き渡っていない末端が起こしている事なので定かではない。

 ジダンは常に一般市民を装っている。いや、兼任していると言うべきか。そのおかげで、要塞への侵入は容易かった。

 門番を除き、他の誰もがわたしを気にする事がなかった為、最深部までそのまま歩いてたどり着いてしまったのだ。無論、最初の門番だけには消えてもらう必要はあったのだが……。



 ここのリーダーと思しき男は、要塞の最深部にある天井の高い大部屋に居た。無駄に大きな椅子に座り、その男の周りに護衛と見られる三人の軽装備の剣士の男が腕を組んでつっ立っていた。

 そのリーダーの男の顔は見るからにずる賢そうで、わたしはその顔を見た瞬間、えも知れぬ嫌悪感にかられた。


「何だぁーてめぇは? ここがどこなのか分かってんのか?」

『ジダンの要塞……と、ちゃんと理解出来てますよ

 この場所はわたしにとって問題はありません』

 男はため息を付くと、酷くだるそうに椅子から立ち上がった。

「問題はありません……だぁ? ここにてめぇが来る事がそもそもの問題なんじゃねーか

 それとも頭イっちまってんのかぁ?」

 そう言って、男は頭に人差し指を当ててトントンと叩いた。

『容易に最深部にまでたどり着けてしまう、ここの警備の方が問題があると思いますが、そちらの都合はわたしにとってどうでもいい事です

 後、頭も大丈夫です』

 すると、男は手のひらで顔面を押さえ、肩を小刻みに揺らしながら笑った。

「クックックックッ……こいつはいい、面白い事を言う姉ちゃんだ

 で? あんたはここへ何しに来たんだったっけかなぁ!?」

 この時、警報と思われる騒音が要塞中に鳴り響き出した、やっと状況を把握してくれた様だ。

『先ほど申しました様に、あなた達ジダンはこのマトラ王国より絶対排除の指定を受けています

 よって、わたしが排除の為に派遣されたと言う訳です』

 警報の音で声が通りにくくなった為、わたしはさっきより少し大きな声を出して答えた。

「つまんねぇ……、全く面白くねぇ冗談だなぁ? おいッ!

 伺いましたでやって来て、何人を相手にするか分かってるのか? あぁ!?」

 男は机をバンと叩いた。

『また話が元に戻った気がします、堂々巡りですね……

 どうやらあなたとお話ししても時間の無駄なだけな様です』

 わたしは言い終わった瞬間にくるりと後ろを振り返り、気配を消して近寄って来ていた男に向かって手をかざした。

「くッそーッ! バレてやがったか……死ねッ!」

 その男は低い姿勢で剣を構えた状態から、地面を強く蹴って飛び掛かってきた。

 わたしは手のひらに魔力を集中し、紫に煌くプラズマを発動させると、その襲い掛かって来た男を「フォン」と言う軽い音と共に消去した。

 2億度を発するこのプラズマは、触れたもの全てを一瞬で基本元素に分解する。それは物質の硬さや柔軟さでどうこう出来る類のものではない。

 襲い掛かって来た男は塵一つ残さず消滅し、男が立っていた辺りの床もきれな半円を描いてえぐれていた。


「な……!?」

 今まで余裕の態度を取っていた男の表情が、わたしの一撃で一変した。

「コイツ魔導士だぞ!」

 男は急いでわたしから距離を取ると大声を上げた。すると部屋の隅から6人の黒いフードをかぶった小さな集団が、スタスタと小走りでやって来た。

「ちょっと魔法が使えるからって調子コイてんなよ!? ここにだって魔導士はいるんだ」

 男は左手を伸ばして黒いフード達を指さした。どうやらやって来た小さな集団はここの魔導士だったらしい。

『そうですか、しかしこの国の魔導士は例外なく登録が義務付けられています

 ですので誰かは容易に特定出来ますし、その人間の周囲を調べれば更に多くの情報が得られる事でしょう』

 すると男はニヤリとした表情をしてこう言った。

「フハッ! わかんねーんだよ! コイツらは登録なんてしてねーんでなぁーッ!」

 登録をしていない? まさかジダンは魔導士を組織内で育ててると言う事か? もし、そうだとしたら少しやっかいだな。

 だが魔導士達はフードをかぶってはいるが、見えている口元の感じはまだ幼かった。せいぜい12~3歳と言った所か。仮に攫ったとしてもまだ登録はされてない年齢だな、確かめてみる必要はあるだろう。


「やれ……」

 男が静かに命令すると、魔導士達が一斉に魔法の形成を始めた。魔導の反応からすると炎風雷水氷土の基本6精霊魔法で同時攻撃をしようとしている。

 しかし、それらの魔法が発動する事はなかった。なぜならその魔導士達の魔法は、発動前にわたしが全て失敗させてしまったからだ。

「何をやっている! 早く撃たねぇかッ!」

 いつまで経っても魔法が発動する様子がない事に、男は苛立ち声を荒げた。その声に子供達はびくっと肩をすぼめて反応し、必死で魔法を形成しようとしていた。

『無駄ですよ』

「なにーぃ?」

『この子達の魔法は、全てわたしがキャンセルさせて頂いてます

 魔法を発動するには科学的な条件があり、それは例えば炎には酸素濃度、氷や雷には湿度と言った様なものです

 魔法はその条件を満たさせなければ、絶対に発動する事はありません』

「どうでもいい説明わざわざご苦労、カガクテキって所までは聞いてやったぜぇ? 興味ねーわ」

『興味はなくても魔法が使えない魔導士がどういうものか、あなたには理解出来ますよね?』

「チィッ」

 男は側に居る剣士達に首で指示を仰ぐと、剣士達は魔導士の子供達の側へと近づき、その頭上から鬼の様な形相で睨んだ。

「あ……、あの……あの……」

 魔導士の子供達はか細い声を発し、酷く怯えた目で剣士達を見つめてカタカタと震え出した。

「てめーらはもういらねぇんだわ」

 虫けらでも見る様な顔で言うと、男がまた剣士達に合図した。

「え……、あぎゃッ!」

 合図の直後、剣士達は少しも躊躇する事なく、魔導士の子供達を次々と剣を振るって斬り裂いて行った。剣で切り裂く重い音が響く度に、魔導士達は小さな悲鳴を発してやがて息絶えて行った。全ての魔導士を始末し終えると、返り血を浴びた剣士達があの男の周囲へと戻って行った。

「はぁはぁ……見たか? 怯えた顔って……たまんねーよなぁ?」

 男は子供達が殺されるのを見て酷く興奮している様子だ。


『あの子達はさらって来たのですね?』

 わたしの問いに、男は興奮した顔をニヤリとさせた。

「ひゃはッ! だったらどうだってんだ!? 正義でも気取るつもりか!?

 だがてめぇは、今コイツ等を助けようともしなかったじゃねーか!」

 この男は根本的に勘違いしている様だ、わたしがよくある物語で言う所の正義の味方と同じ行動をするとでも思っているのか。

『わたしの仕事はここの殲滅ですので、その対象にはあの子達も含まれています

 それについて、わたしが手を下すか否かは関係ありません』

「へっ、やっぱ金かよッ! クククッ!

 だったらよぉ、てめぇのこの仕事の成功報酬を言ってみろ!」

『難易度は特例で、成功報酬は200万丸ですが、そんな事を聞いてどうするつもりですか?』

「よし分かった! ジダンはてめぇに1億丸出そうじゃねーか

 つまり雇ってやるって言ってんだよ、ジダンの魔導士になる契約金としちゃぁ悪くない金額だろぉ?」

 男は勝ち誇ったかの様な表情で、交渉を持ちかけて来た。

『そうですね、一億丸の契約金はわたしも悪くない額だと思います』

 通常余程の事がない限り、どんな場合でも契約金など発生する事はまずない。それどころか余程の場合だとしても1億丸の契約金などはあり得ないだろう。ジダンは資金力に物を言わせて目ぼしい人材を取り込んでいるのだろうか。

「ほ? 何だてめぇ、意味不明な事言う割に話が分かるんじゃねーか

 じゃぁ決まり『ですが!』だ……あ?」

 男は契約に同意したと勘違いし、わたしに近付こうとして足を止めた。

『ですが、それと契約を結ぶかどうかとはまた別の話です』

「ははーん? さては金額の交渉か、即決せず出来るだけ値を吊り上げようって腹だな

 確かに相手の魔法を打ち消す事が出来る能力がありゃぁ、もっと稼ぎが上げられるだろうからな

 ひょっとしなくても王国と戦争が出来るぜぇ? なぁ!?」

 男がにやりとして言った。


『……ですか?』

「だが、契約金は1億5000万丸までだ!

 後は別途成功報酬でって事で折れてくれねーか? ジダンの報酬は安くないぜぇ?」

『聞いてらっしゃいますか?』

 勝手にべらべら喋り続けたその男をわたしは制止した。

「あん? 何だぁ?」

『残念ですが、わたしはジダンとは如何なる契約も結ぶつもりはありません

 それより殲滅の続きをさせてもらいたいのですが』

「はん? てめぇ、契約金だけで1億5000万丸だぞ?

 一生そんな仕事してても稼げねぇ大金が手に入るってチャンスを、むざむざ逃そうって寝ぼけてるんじゃねーのか!?

 つーか、何で誰もここに来ないッ! 警報鳴ってるだろーがッ!」

 警報は今も鳴り続けているが、背後から狙って来た剣士と、魔導士の子供達の他は来る様子はなかった。

『わたしにとってはお金そのものが、そもそも魅力的なものではありませんので……それじゃ……』

 わたしは男に向かって右手を差し出すと、ありったけの魔力を込めて精霊魔法の核を作り出した。手のひらの上に浮く精霊魔法の核は、青白い光で輝く玉となって音もなく回転を始めた。わたしはその光の玉を放り投げ、男の目の前の床に落とした。光の玉は床から少し浮いて回転している。

「なんだこりゃ? こんなもんでジダンの殲滅が出来るとでもお……おぉぉッ!?」

 精霊魔法の核は回転しながら徐々に膨張を始め、すぐに男の背丈と同じ位にまで膨れ上がった。

『これは精霊魔法を核とし、最終的に核融合に至る光の玉です

 組み合わせによる魔法効果によって重力を形成し、空中の水分から核融合の燃料となる重水素やヘリウム、その同位体を取り込むと……』


「おいッ! どんどんデカくなってるぞッ!? ヤバいんじゃねーのか!?」

 男は慌てて大声を出して叫んでいる。剣士の一人が光の玉に剣を突き刺すと、剣士の腕ごと眩い光を放って燃えてしまった。

「ぐわぁぁッ!」

 腕を失った剣士が床に転がって悲鳴を上げた。

『気をつけて下さい

 既に数千度の高熱を重力で抑えてますので、外部から刺激を与えると少々ですが熱を吹き出す恐れがあります』

 そうしてるうちに、光の玉はこの部屋の天井まで達してしまった。

「そんで……この後どうなるんだ?」

『一定量の燃料を取り込んだ後、中心部では収縮が起り2億度の完全電離プラズマ状態を作り出します

 その熱を利用して核融合が起こり、中心温度は4億度へと昇華した後に重力の支えが消滅して外殻が崩壊するのです』

「はぁ!? さっぱりわっかんねーよッ!」

『そうですか……では……

 最終的に大量のエネルギーが放出され、この玉を中心として約半径2kmが焼却される事になります』

「ハッ! 2kmだぁーーーッ? てめぇ頭悪いだろ!?

 そうなったらてめぇだって巻き込まれるんじゃねーのか!? ハッタリかましてんじゃねーーーッ!!」

 男が怒鳴った時、わたしの目の前の床に小さな人影が落ちた。人影は床に落ちた時にゴチンと言う痛そう音を発していた。

「うわッ! 今度は何だッ!?」

 男は落ちて来た人影に驚き声を上げた。その小さな人影は頭を押さえてうずくまっている。

「お迎えに来て……

 うぐぐぐぐ……痛くないぞ……痛くないんだぞ

 くッ……うあぁぁぁぁーーーッ!!」

 小さな人影は言いかけた台詞の途中で泣き出してしまった。

『あぁもぉ……、ルビーさんったら遅過ぎですよ』

 そう言って、わたしは頭にたんこぶを作って泣いてるルビーの頭を撫でてあげた。

「えぅ……ごめんごめんッ!

 あんたの話がイミフ過ぎてうっかり寝落ちしたんだ、文字通りになッ!」

『そうですか……では行きましょうか』

「うむッ! では皆の衆さらばだッ!

 ちゃらぁーん!」

 ルビーが適当な効果音を口ずさんでくるりと一回転した瞬間、わたし達の体は凄い勢いで後方へと飛ばされた。足元の方向を見ると、あの男と剣士達が唖然とした表情でこちらを見ていた。

 その反対側である進行方向を見ると、ルビーの魔法によって建物の壁が次々と口を開けてわたし達を通していた。そして一気に要塞の外へと飛び出すと、更にスピードを上げて精霊の森の外にある小高い丘に着地した。


 その直後、要塞のあった方向に閃光が走り、少しの間を置いて地響きが伝わって来た。

「うーむ、いつもながらコレは壮絶な眺めだなッ!」

 風に吹かれて腰に手を当てて立つルビーが、天を焦がす火柱を眺めながら言った。

『あの、ルビーさん? 何人か来ましたよ』

「へ?」

『あの最深部にです、わたしは背後から襲われたのですが』

 今回、ジダンの兵が最深部に来ない様にするのがルビーの役目だった。

「あれはサービスだ、クリーダが退屈しない様にって思ってな」

『あの子達も……ですか?』

 ルビーはわたしに背中を向けたまま、何も言わずに黙っていた。風に揺れるルビーの髪がたなびき、吹き付ける風の存在を視覚的に感じられた。


『ルビーさん、精霊の森の消火……手伝ってもらえますか?』

「もちろんだ」

『ありがとうございます』

 わたしはルビーを膝の上に乗せ両手で抱きしめると、後頭部に額をつけて言った。

「そう言えば、クリーダって精霊の森でカガクシャって人に見つけられたって前に言ってたよな」

 そして、ルビーはわたしの手の上にそっと手を重ねた。

『はい、それまでの記憶は全くないのですが……』

「そうか」


 わたしは、たまたま精霊の森に調査に来ていた科学者に見つけられたのだ。

 ルビーのその一言は、まるでわたしの全てを察してくれたかの様だった。


説明がくどくてすみません。

何度か書くたび少し形が変わりました。そして何だかまとまりませんでした。


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