4 悪役王女はやり直す
現世編
十二歳からのマルグレーテの奮闘
私はあの時確かに処刑されたはずだった。
そして何故だかまた同じ人生を繰り返して十二歳の時に全てを思い出したのだ。
そうするとまた6年後エリオットが殺され、国が滅亡して私は処刑されることになる。
そんなことは絶対に嫌だ!!
そんな運命なら変えてやる!!とその時の私は心に固く誓った。
そのためには私は以前と違い強く賢くなって国を動かすことと、エリオットを婚約者には選ばすエリオットの未来も変えるのだ。
その時ふと、侍女達が読んでいた流行りの小説に出てくる「悪役令嬢」が頭に浮かんだ。
ずる賢くて何者にも負けない傲慢な態度、自分の思ったことをやり通す強靭な図太さ、周りの顔色を伺ったりせず、嫌われても折れない強かさ。
これこそが私の求める姿。
拳を握りしめ思わず叫んだ。
「悪役王女に私はなる!!」
その瞬間、「悪役王女マルグレーテ」が爆誕した。
次の日の朝、ダイニングに現れた私を見た父王と母王妃は思わず二度見をした。
「おはよう、マルグレーテ。
今日のその格好は…その、何とも…。
いや、どんな姿でもそなたはこの国で一番可愛いのだが…。」
「そっ、そうね。
今日のあなたは何というか…とっても可愛いけどちょっと大人っぽいわね…?」
いつものフリフリではなく、真っ赤な髪をキツイ縦ロールに巻いて濃い目の化粧に赤地に黒と金の刺繍の入ったゴージャスなドレス姿の私を見た父母はさすがに言葉を詰まらせた。
まあ、キツめの顔立ちの私にはこちらの方が似合っているとは思うが…。
「お父様、お母様、私はもう子供じゃなくってよ。」
そう、前世を思い出した私は中身は十二プラス十八歳なのだ。
(もしかして、反抗期なのか・なの⁈)
と、驚愕する両親を前に、
「それで私、たくさんお願いがありますの。
もちろん全て聞いてくださるでしょう?お父様。」
と、小首を傾げて目線に圧をかける。
「えっ、も、もちろんだとも。可愛いマルグレーテ。」
(よしっ、言質はとったわ。未来を変えるための作戦開始よ!)
こうして悪役王女となった十二歳の私は、未来の記憶を元に運命を変えるため行動を開始した。
まずは一つ目のお願いは、一年後のエコールサンク学園の入学試験に向けての講師をもっとレベルの高い人達に変更してもらうことだった。
前世では学園にギリギリ入学はできたが、勉強は嫌いで王太女としての教育は進まなかった。
もちろん国政なんて何それ美味しいの?状態で、エリオットに頼りきりで国内の貴族達には影でバカにされ、他の国からはナメられていた。
だから今回、私は必死に勉強した。
そのお陰で学園には首席で合格し、入学式では新入生を代表して挨拶もした。生徒会役員も引き受けた。
悪役令嬢(王女)は高スペックと決まっているのだ。(たぶん)
そして次にお願いしたのはエリオットの生活環境を改善することだった。
祖国から捨てられたと同然で、頼りないエリオットの身に何かあれば国際問題になると父王を説き伏せ、王宮の近くに立派な屋敷を用意させ、たくさんの使用人と護衛をつけ、私と同じく高度な講師陣を派遣して不自由無く生活できるよう手配した。
そのせいか、エリオットも私に次ぐ高成績で学園に合格した。
そしてエリオットは入学してからも他の婚約者候補、語学と社交に優秀なリュシアン公子、剣術で群を抜くジョルジュ辺境伯令息、芸術に才能のあるハインリヒ王子ら三人を全て上回る結果を出し、私と毎回座学の学年のトップ争いをするほどの成績を続けている。
今世、待遇を変えたからか、エリオットは前世のような儚げな感じは全く無く、眩しいほどの素敵な貴公子となった。
そしてエリオットは密かに祖国から私の婚約者に選ばれるように厳しく指示されているためか、何かと私に関わろうとしてくるが、前回よりもスパダリになったとしても、私は心の中で盛大に涙を流しながらもエリオットを避け続けた。
エリオットの恐ろしい未来を変えるために、今回は絶対に関わってはいけないのだ。
それから私は父王にもう一つ重大なお願いをした。
それは国の政策を決める御前会議に将来の後継者の勉強の為と称して出席できる許可をもらうことだった。
そうして私は学園での優秀な成績を武器に、在学中に国政に口を出す権利を得た。
私は温厚でチョロい(ごめんお父様)王をナメている貴族達を抑え、前世の記憶をフル活用して国の未来を変える為次々と新しい政策を打ち出した。
まず最初に行ったのは、今まで身分証を提示するだけで簡単に通れた国境や港の入国検問所に、入国する人や輸入された物品を厳しく審査する検疫所を設けた。
近い将来に起こる外国から輸入された肥料に付いていた害虫から発生した蝗害と、ブレイズランド帝国から持ち込まれた伝染病の流行を未然に防ぐためだ。
そんなものを作ったら輸入品が流通するまでに時間がかかるとか、人の交流が減ってしまうとか反対する貴族も多数いたが、
「この私の意見に反対するなぞ烏滸がましくてよ。」
と、黒い扇を顎に当て、睨みつけて黙らせた。
今現在、蝗害も伝染病の流行もまだ未来の話ではあるが、検疫所の設置は犯罪歴とかがあり、不法に入国しようとする者の減少や、違法な薬物や武器などの密輸を食止めるなど、治安の問題で意外な良い効果を上げている。
その流れで私は、犯罪の温床となっていた王都のスラム街を解体して整備し、浮浪者に職や住居を斡旋し、救護院や孤児院を国の管理下に置き改善する法案を成立させ強引に実行していった。
次に手を付けたのは悪徳貴族達の一掃だ。
そのためにもう一つお父様にあるお願いをした。
まだ学生の身であり気軽に動くことの出来ない私を補佐し手足となって働いてくれる優秀な人材をおねだりした。
そうして「按察官」と名付けられた文武や諜報に優れた二名の若者が、私の側近として忠誠を誓ってくれた。
私はこの按察官達を使い、裏で犯罪に手を染めていたり、前世で飢饉や伝染病の蔓延する中、悪どく私腹を肥やしたり、国内外の反ラティエール王家の勢力と通じて国を裏切り私を処刑した貴族達に復讐「ざまぁ」することを決意した。
あの時の恐怖と痛みは未だ夢でうなされるほどはっきり覚えている。
けれど現時点では何も起きていない未来(過去?)の事なのだ。
だから私は按察官に標的の貴族を徹底的に調べ上げさせ、例えまだ大きな悪事を働いていなかったとしても、将来であれ元々悪事を働くような家には叩けばいくらでも埃は出るものなのだ。
それらを暴いて私はバッサバッサと斬罪していった。
そうして大した理由もなく斬罪された貴族家もあったが、その腹いせに私の悪役ぶりが大きく広められていった。
でもそれで少しでもこの国が良くなり未来が変わるなら、私からしたら「悪役上等!」なのである。
そうして悪役王女になると誓ってから五年が経ち、私は十七歳になった。
そしてとうとう、学園の卒業を三ヶ月後に控えた建国祭の夜会で目標の一つであったエリオット皇子へ婚約者候補の契約を破棄することを宣言した。
涙を見られる訳にはいかないので、昨夜私は早々に会場を後にしたが、あの後エリオットはどうしたのだろう。
前世では私が強引にエリオットを婚約者にしてしまったが、今回はきっと迷わずリリーナの手を取りハッピーエンドを迎えるのだろうなと、エリオットの未来が変わることへの安堵とそれでも忘れられない心の痛みに一つため息を吐いた。
その時、私の執務室の扉がノックされ按察官の一人が報告を持ってきた。
「エリオット皇子がいなくなったと知らせが来ました。
昨夜のうちに従者のライリー卿とともに屋敷を出た模様です。」
「えっ⁈ わかったわ。引き続き皇子の行方を探しなさい。」
やはり一つ未来が変わった。
エリオットを婚約者に選ばなかったこれからの未来は、私が知っているものとは違ってくるのだろう。
今はそれが明るいものであるように祈るばかりだった。
悪役王女の誕生秘話
十二歳の悪役王女はまだまだお子ちゃまなので子猫が威嚇しているみたいなもんです。
お読みいただきありがとうございます。
不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。




