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悪役王女の矜持  作者: ふう


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2 悪役王女は過去を振り返る

悪役王女はただのワガママ娘だった過去を語る



 次の日、(わたくし)は朝の眩しい光を感じ目を覚ます。

いつもより少し早く目覚めたようだ。

昨夜はあんなに泣いて思い悩んで眠れなかったのに、陽はまた昇りいつもと変わらない朝が来るのだなと、ぼんやりとベッドの天蓋(キャノピー)から差し込む光を眺める。

寄り添って寝ている銀色のシマシマの毛並みに紺色の目をした少しおデブな愛猫「エル君」に手を伸ばす。

まだ眠いのかそのままくるんと丸くなった。


 私は今、何故だか理由は分からないが二度目の人生を生きている。


 そのことに初めて気付いたのは5年前の十二歳の時、エリオットが婚約者候補としてこの国を訪れ、私との初顔合わせの時だった。

 お隣の大国、ブレイズランド帝国の第五皇子だと聞いていたが、初めて会ったエリオットは私と同じ年齢のはずなのに小さくて細くてぎこちない態度はもっと年下のように感じた。

そして綺麗な顔立ちなのに感情の無い冷たい夜空のような紺色の瞳と目が合った瞬間、何かの情報が私の頭の中いっぱいに流れ込んできた。

その突然のことに私は混乱して気分が悪くなりうずくまってしまった。

それで急きょ顔合わせは取り止めとなり、その夜から二日間、私は熱を出して寝込んでしまった。

後から同じ時期にエリオットも体調を崩したと聞いたが、きっと長旅の疲れが出たのだろう。

 そうして熱が下がった時、私には知るはずのないこれから起こるだろう()()()()()があることに気がついた。

その内容の恐ろしさに十二歳の私はベッドの中で子猫だったエル君を抱きしめてわんわん泣いた。

 私はこの理解し難い未来の記憶の事を父母や侍女達、医師にも話したが皆、


「熱が出て悪い夢でも見たのね。」とか、


「高熱のため意識が混乱しているのでは?」とか、


「冒険小説を読みすぎてちょっと早い十四歳病ですか。」


とか、言って誰も信じてくれなかった。

それでもしつこく訴えていると、今度は別の病気を疑われて医者が再び呼ばれ、父母にも大変心配されてからこの事はもう誰にも話さないと決めた。

 私もこれが熱による悪夢やただの混乱であった方が良かったと思う。

なぜならこの記憶によると、恐ろしい出来事が次々と起こり、このクロワルド王国は滅亡し、私は十八歳で死ぬのだから。

 この世界には魔法なんか無いし、何がトリガーになったのかは分からないけど、私の中では夢とは思えないしっかりとした実体験としての記憶があった。

巷で流行っている冒険小説で読んだ「死に戻り」と呼ばれているものが一番近い。

でも私自身が体験することになるなんて…。

 


 一度目の人生(前世と言うらしい)では、私はただの我儘でバカな娘だった。

 家庭教師達の奮闘と多少の王族特典で、私は何とか名門のエコールサンク学園に入学することができた。

でも学校での成績はそこそこで、将来この国の女王になる自覚はあったが、政治や国際情勢、国を治めて守っていくということにイマイチ覚悟も興味も持てず、4年間の学園生活を今と同じ顔ぶれのリュシアン公子、ハインリヒ王子、ジョルジュ令息、そしてエリオット皇子といった婚約者候補達にチヤホヤされながらただ気楽に楽しんだだけたった。

そして私は卒業と同時にエリオット皇子を婚約者に選んだ。



 前世でも初めて会った時のエリオットはとても大国の皇子には見えないような貧相な子供だった。

 後に聞いた話によると、エリオットのお母様は貧しい男爵家の出で、ブレイズランド帝国の後宮で侍女をしていたそうだ。

とても美しい方で、気まぐれに皇帝の目に止まりエリオットを産んだが、権力がものを言う後宮で実家の後ろ盾も無く、皇帝の寵愛も得られないまま、他の妃達からは数々の嫌がらせを受けて心を病み、エリオットが物心つくまでに儚く亡くなってしまったそうだ。

 そうしてエリオットの存在は忘れ去られ、乳母と乳兄弟であるライリーだけに守られて後宮の片隅でひっそりと生きてきたという。

 そしてたまたま隣国の跡取り姫である私と同い年だったため、まるで捨てられるようにこの国へ、私の婚約者候補になるために送り出されたらしい。

 そして前世ではクロワルド王国へと来たエリオットは祖国から充分な援助もないまま一年間苦労して図書館などで独学で勉強し、見事名門のエコールサンク学園の入学試験に合格し、まず婚約者候補としての条件の一つをクリアした。

 エリオットは学園に入ってからも努力を重ね、なかなかの成績を修め、性格も控えめで優しく、何よりも少し影のある儚げな美貌は周りの目を惹きいつしか人気の貴公子として令嬢達の熱い視線を集めるようになった。

 もちろん前世の私もそんなエリオットに夢中だった。

エリオットも私にとても優しく接してくれて、今思うと婚約者に選ばれるため祖国からの命令だったのだろうが、そんなこと当時の私に分かるはずもなく、エリオットのことが大好きで一も二も無く婚約者に選んだ。

皆の憧れのエリオットを自分のものにできて私は幸せで舞い上がった。


 思えばそれがこの後続く悪夢のような破滅のシナリオの分岐点(ターニングポイント)だった。


 エコールサンク学園を無事卒業した私は、渋々まずは王太女となるための後継者教育をエリオットと共に始めた。

 今まであまり真面目に勉強してこなかった私にはその内容はとてもついていけるものではなく、たびたび無理やり理由を作ってサボってしまった。

でも幸いエリオットがとても優秀で、励まされながら教えてもらいながらも日々何とか頑張っていた。

本当にエリオットは私の我儘も嫌な顔せず聞いてくれて、優しくて頼りになる最高の婚約者だった。


 そして前世の私の幸せな婚約者としての生活は、思いもよらぬ方向から少しずつ少しずつ崩壊していくことをその時の私は想像だにできなかった。











 


前世編スタート



お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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