第5話 王
村へ戻った2人は、まっすぐ洞窟へと向かっていった。
「お、おい。その男は?」
村人たちの声を無視して洞窟へと向かう。
「おい、その男は何者だ。」
ここまで来たが、どうすればいいのか考えていなかった。笠の男も黙っている。
「えっと...」
「おい!何者だ!」
側近が笠の男を掴もうとした時、側近の2人の腕と頭が飛んだ。
「え?」
「入るぞ。」
そのまま何事も無かったかのように笠の男は洞窟へ入っていった。
刀を抜いた瞬間すら見えなかった。側近とあの距離にいたにもかかわらず、血を浴びなかった。
「立派なものを作ったな。」
洞窟の中は松明でしっかりと明るくなっており、村人たちで協力して作った建物が立派に建っていた。
「ついてこい。」
言われるまま壁沿いに建物の方へ進んで行った。笑い声が聞こえる。
「あの娘、藤原様のお気に入りだったのに俺たちも遊んで良かったのですか?」
「うむ、もう遊べないのは悲しいが仕方ない。たまにはあーやって遊ぶのもいいな〜。うむ。」
あれは妹の話だ。腸が煮えくり返る気持ちになり、今すぐにでも飛びかかりたかった。
「藤原様に俺ちゃんと言ったのに〜。『呼吸できてませんよ』って。」
なぜこんな話を笑ってできるのか。
「うむ。噛んできたんだがね、思いっきり顎を殴ったら噛めなくなっていい具合になったぞ。」
もう我慢できない。障子を突き破ろうとした時、笠の男から止められた。
「俺が行く。」
笠の男は堂々と中へ入る。
「何者だ!」
近づいた側近の首を笠の男は落とした。その腕にはいつ抜いたのか、刀が握られていた。
「わ、私は藤原光源!安倍晴明と肩を並べる最強の陰陽師であるぞ!」
「は?安倍晴明は俺の友人だが、お前ごときがあいつと肩を並べるなんてありえないんだが。」
「そんな嘘誰が信じるか!」
「じゃあ側近使わずに俺と戦えよ。安倍晴明とは1度手合わせしたから力はわかってる。」
「ぐぬぬぬぬ。」
「まぁ、あんたは一旦殺さないでやる。側近共は、いらねーから全員死ねや。」
6、7人ほどいた側近は一斉に飛びかかる。
「もう入ってきていいぞ。」
え?今入ると邪魔になるのではないか?そう考えながら、中をゆっくり覗いた。
そこには四方に血が飛び散り、倒れる側近たち、そして両腕を落とされた陰陽師が座っていた。
「な、なんで俺の腕がないんだ!?」
「トドメはあんたが刺せ。」
「おい待て!あの娘は俺たちがわざと殺した訳じゃないんだ!あの娘は快楽と共に死ぬことを選んだ!俺たちから逃げる機会なんて何度もあったんだよ!」
「脅したんだろ!妹は優しい子だ、村を人質にして逃げられないようにしたんだ!快楽と共に死んだ?涙の跡をあんなにつけて、下は血だらけだった!」
落ちていた刀を拾い、振り上げた。
「待て待て!俺の口利きでいい暮らしをさせてやる!」
「お前、藤原家の人間じゃないだろ?」
「はえ?」
笠の男からの指摘に分かりやすく動揺した。
「待て待て待て待て待て!」
振り上げた刀を男の肩目掛けて振り下ろした。食べ物が陰陽師たちのせいで減ったこと、そして刀を初めて使うせいで、上手く切れない。何度も振り下ろしたことで傷が深くなっている。
「痛い!頼む、やめてくれ!」
何度振っただろうか、陰陽師が絶命するのに相当な時間がかかった。
「はぁはぁ。あ、ありがとう。」
「まだ復讐は終わってないんじゃないか?」
「え?」
「村人たち、あいつらも同罪だ。誰も引き止めなかったんだからな。」
そうだ。あいつらも同罪だ。心の中で安心していたんだ。
「あの...あなたの名前、教えてください。」
「.....俺は『桃太郎』、そして『鬼の王』だ。」
ゆっくりと笠を取り、まっすぐ女性を見つめた。笠の下の顔は整った顔立ちの美しい少年だった。
2人は何かが通じあったかのように同時に動き出し、洞窟を抜けた。
後に藤原を名乗る謎の男達による支配に耐えかねた1人の女性が村人と、男たちを殺害し自らも命を絶つという恐ろしい事件として広がった。




