第3話 最初の鬼
京の都までは、1週間ほどかけて向かうようで、その間に頼光は金太郎の修行と用事を済ませるようだ。
頼光は3日目にしてその戦闘力とセンスの良さに驚いている様子で、「あいつら以上の素質があるな...」と何度もボヤいていた。
「正直言って、予想以上だ。あとは実戦経験を積んでいくとお前は桃太郎レベルの最強になれるだろうよ。」
さすがに言い過ぎたと思った。
「僕さ、桃太郎伝説のこと少ししか知らないんだ。あの人の強さとかさ、教えてくれよ。」
「ん〜。もうすぐ着くからまた今度な。」
この人絶対めんどくさいからだ。見えてきたのは小さな集落だった。
「よぉ、『信幸』いるか?」
畑仕事中だった男が無言で小屋の中へ入った。しばらくして小屋の中から出てきたのは、ボサボサで長い髪をまとめた若い青年だった。
「げっ!源頼光...」
「げっ!とはなんだー?早速で悪いんだが、こいつの武器作って欲しいんだ。」
頼光は、金太郎の背中に携えた斧を強引に奪い、信幸に投げた。
「斧ね、刃こぼれもすごいけどとても頑丈だ...わかった、いいけど条件がある。」
「どれだけ巻き上げる気だ?」
「金はいつものでいいが、今回は近くの森にいる鬼を狩ってきてほしい。」
「鬼?」
「まぁ正確には『鬼の使い』なんだけど、材料を揃えなくて困ってるんだ。」
「ん〜。実戦経験って意味でちょうどいいな。金太郎、お前戦えや。」
「は!?」
鬼を見たことすら、命をかけた戦いをしたことすらない金太郎は混乱していた。
「まぁ心配すんな。俺の見立てでは、お前は勝てるぜ。」
「そ、それでもいきなり戦うなんて。」
「いきなりってわけでもないだろ〜。3日修行してやったんだから。」
無茶苦茶な人だな...この数日でずいぶんと振り回されたが、ここまでくるともはや笑えてくる。
信幸の情報によると、森の奥にある神社に鬼の使いがいるのだという。
「うし!行くぞ〜。」
「はぁ〜...」
道中、鬼の使いについて頼光に説明をしてもらった。
人の記憶に残り、最も残る感情、それは恐怖である。そして稀に、恐怖は増幅し、強くなってくると特別な感情へと変わっていくことがある。その感情は『崇拝』となり、自分も鬼のように強くなりたいと願う。恐怖から鬼を崇拝した人間の変化した姿が『鬼の使い』であった。
「人から鬼に変わることなんて本当にあるのか?」
「さぁな、俺も鬼の使いは見たことがない。なんせ鬼の使いは弱くて個体数も少ない虫のようなものだからな。わざわざ探そうとも思わん。」
話していると、2人はすでに神社に着いていた。
昼にも関わらず薄暗い神社は、空気が冷たかった。小さい神社だが、高い木に囲まれた神社は禍々しい雰囲気を放っている。
「鬼と戦う時のコツを教えてやる。『目を離すな』だ。」
「どういうことだ?」
「やればわかる。」
頼光に押され、金太郎は境内に踏み込んだ。
何かが起きる。そう思った瞬間、肋に衝撃がかかり、気がつくと鳥居の横にあった巨大な木にぶつかっていた。勢いが凄まじく、巨大な木を突き破ってさらに奥の木にぶつかった。
「ぐはっ!」
金太郎は視線を境内に向けると、そこにいたのは身長170程で角が1本、長い歯が口の中におさまらず2本出ている人間の形をした鬼であった。
「ぐ....がっ....がっ...ぎー!!」
言葉が話せないのか、突然大きな声をあげた。
肋が軋む。呼吸ができない。口の中に広がる鉄の味。どう考えても強い。
「くそ...」
ゆっくりと境内に戻る。背中に携えた斧を手に取り、呼吸を整えながら、霞んだ視界で鬼の使いを捉える。
「がはっ!」
たった1秒目を閉じた瞬間、金太郎は地面に背中をつけていた。
『目を離すな』これはこういうことだったのか。鬼は凄まじいスピードを持っていた。
(やばい、意識が...)
とどめを刺そうとした鬼の動きが突然止まった。鬼は鳥居の方を見る。
源頼光は、ゆっくりと境内に足を踏み入れる。
「ぎー!!」
鬼は頼光に狙いを定めた。時間にして30秒たっただろうか、頼光は鬼の猛攻を全て避けている。
鬼が頼光の背後に周り首めがけて蹴りを放つ。頼光はその蹴りを片手で受け止めた。反対の腕は腰に携えた刀を握り、振り向きながら刀を抜いた。
鬼も斬られたのかわかっていない。頼光は刀をそっと鞘に収めた。その瞬間、鬼の使いの首から下が消し飛んだ。
「え..どうなってんだ....」




