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海に愛された男  作者:
第二章

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 スタッフオンリーと書かれた扉を開けると、番号が振られた電子ロッカーがまず目に入る。ルギーは自分のロッカーの前に立ち、親指の指紋を読み込ませた。ピッと機械的な音がなると、今度は数字のボタンが青く光る。2段階認証を無事突破すると、中から複数のカードキーを取り出し、早速そのうちの一枚を翳した。


 海とはまた違った、水の匂いが鼻を突く。


 更衣室に入り、手早く服を脱ぎ捨てると、白を基調とした水族館のスタッフTシャツに袖を通した。Tシャツの胸元には、「グランヴィア」のロゴと共に、ブーケシェルを象った可愛らしい刺繍が入っている。


 本業の方といい、副業の方といい、制服はどれもデザインが可愛いらしい。それが余計、ルギーのチャラさを際立たせていた。


 

 ルギーは基本的に自由に水族館内に出入りできる立場であるが、本日はしっかりとした理由があった。


 11月はグランヴィア水族館・人気投票の時期である。今日は最終集計日、投票紙の回収及び票数の計算が本日の任務だった。


 彼はチケット売り場から、館内へと足を踏み出す。まずは一階からだ。




 水族館は大きく分けて二層構造になっていた。


 一階は、陽光が差し込む明るいエリアであり、レヴィアス島周辺の熱帯魚や、小型の海洋生物が展示されている。観光客が最も多く賑わう場所で、目玉はやはりブーケシェルの専用ブースだ。


 鮮やかな色彩を持つブーケシェルは、学術的にも経済的にも極めて価値が高く、それゆえに常連客や研究者の関心を集めやすい。しかも展示されているシェルは全て、貝殻と同じ色の石を内包している。その輝きは、『宝石の王様』と呼ばれるダイアモンドにも劣らない。


 一方、長いエスカレーターを下った先にある半地下のエリアは、見上げるほど巨大な水槽が並び、海というものの神秘性を強く感じられる。


 小さな子供にはあまり人気が無いため、家族連れはあまり長居することはないが、年パス所有者や研究者からは絶大な人気を誇っている。


 人気ランキングでは、地下の生物がブーケシェルとならんでトップ10を占めるほどだ。



 ルギーは、賑わう一階の通路を、笑顔を貼り付けて進んでいく。まず来場者が目にするであろう、最初の投票袋が設置された、ブーケシェルのブースへと足を向けた。


「ブーケシェルは毎年強いんだよな。まあ、宝石が入ってるんだから、そりゃ人気が出るか」


 ルギーは、一つ一つ区切られたブーケシェルの水槽に目をやり、異常がないかをさりげなく確認した。この広い水族館内でも随一の人気と価値を誇る。盗まれでもしたら、その損失は自分のマネーだけでは補填しきれない。まぁそんなこと起こらないが。


 人混みの横を抜け、袋を掴む。予想通り中にはたくさんの紙が入っていた。これは今年も首位争いに加わるだろう。


「よし、一つ目完了」

 ルギーは、布袋を肩にかけ、次の回収場所へと向かう。彼の頭の中では、今日の任務のシミュレーションと、常連客の顔ぶれが浮かんでいた。




 次に彼が向かったのは、メイン通路の中央にある回遊魚の巨大な円筒水槽だった。



 ここは水族館最大のインスタレーションの一つだ。直径十メートルはあろうかという巨大な円筒形のガラス水槽の中を、レヴィアス島周辺にのみ生息する、銀色に輝く数千匹の回遊魚が、絶え間ない螺旋を描いて泳ぎ続けている。天井から差し込む陽光が、魚たちの鱗に反射し、水槽全体がきらめく銀色の渦のように見えた。



 観光客は皆、頭上を優雅に泳ぎ回る魚の群れを見上げ、感嘆の息を漏らしている。ここは記念撮影をする定番のスポットであり、ルギーの背後からも、シャッター音がひっきりなしに聞こえてくる。


 ルギーは、笑顔を絶やさず、「こちら、お写真お撮りしましょうか?」と積極的に観光客に声をかける。


 ちょうど、若いカップルが水槽をバックに自撮りを試みているところにルギーは近づいた。


「もしよろしければ、ブーケシェルの刺繍が可愛らしいこのグランヴィア専属カメラマンがお撮りしましょうか?魚の群れがちょうどいい螺旋を描いていますよ!」


 彼は、ウィンクと共にチャラい口調でそう提案した。


「えっ、いいんですか?ありがとうございます!」

「魚がいい位置に来るまで、ちょっと待ってくださいね...照明の角度が完璧な場所で撮るのがコツなんです」


 わざと少しばかり大きな声を出す。水族館というのはサービス業なのだ。


 ルギーは、カメラのシャッターを押すタイミングを計るふりをして、一瞬だけ水槽の照明パターンと周囲の人物を確認した。


 一階に聳え立つ円筒水槽の照明は、見た目の美しさだけでなく、不審な行動や人物が見られた場合、従業員へ警告を送るための目印となっていた。


 

 パターンは通常だが、一応彼は、水槽越しに辺りを見回し、不自然に長居をしている人物がいないかをチェックする。多くの人間は、魚の動きに目を奪われているか、液晶画面を見ている。小型のカメラや計測機器を不自然に構えている人物はいないか。視線だけを鋭く動かす。



 写真を撮り終え、カップルが満面の笑顔で礼を述べて立ち去るのを見届けてから、ルギーもまた次のエリアへと足を進めた。

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