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海に愛された男  作者:
第一章

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17/22

17

 事件解決の翌朝。夜の喧騒が嘘のように穏やかなグランヴィア水族館近くのカフェテリア。白いパラソルが並ぶテラス席には、早めに到着した観光客がまばらに座り、静かなざわめきが満ちていた。海からの涼しい潮風が吹き込むテラス席で、ルギーはアイスコーヒーとマスタード山盛りのホットドッグを堪能していた。


 ルギーの向かいに座るのは、フィデル。朝の便を無事見送りビーチチェアに寝そべろうとしているところを、ルギーが強引に誘ったのだ。彼はルギーの話に耳を傾けながら、静かにコーヒーを嗜んでいる。彼の瞳には、朝の穏やかな海面が映り込んでいた。


「...というわけで、ミストラスさんの一撃はすごかったですよ。ロニールって男、たぶん背骨が数本イってるんじゃないかな」


 ルギーは、ホットドッグを豪快に頬張りながら、昨夜の出来事をまるでスポーツ観戦のように陽気に語った。彼の顔には、任務完了の充足感が満ち溢れている。


「そうか」

 フィデルは、淡い日差しの中、目を細めてルギーの話を聞いていた。


「狙っていたブーケシェルも元通り、石像の方もなんら問題はなし」


「良かったな」

 

「それでなんと、ラスとアステルは人魚の血を引いてたらしいんですよ」

 それは予想外の情報だったとばかりに、フィデルは目を白黒させた。パスポートの写真を見る限り、二人は人間にしか見えなかったからだ。しかし、レヴィアス島を狙ったということは能力が発現しない程度に血は薄いのだろう。


「でも本当に少しだけらしいですけどね。人魚の血が濃かったら、うちなんか狙わないですもんね」

 ルギーは、アイスコーヒーを飲み干しながら軽やかに言った。


 ハーフまでは、能力を発現させ、自由自在に人魚になれることがほとんどだ。当然純潔の人魚に比べるとその力は劣るが、その身体能力は人間のそれをはるかに凌駕する。クォーターになると、鰓呼吸できる確率が半分程度まで落ちる。四分の一を下回ってくると、人間よりは身体機能が多少優れている程度になってくる。


 競技種目において、人間と同じレベルで認められるのは、人魚の血が四分の一未満までだ。彼らは、人間として現実社会で活動している。


「無事解決したなら何よりだ。まぁ元より俺たちがすることなどほとんど無いがな」

 フィデルは、静かにそう漏らした。彼の諦めにもにた落ち着きは、ボスへの絶対的な信頼から来るものだった。全てはボスの手のひらの上。自分はただの人間であり、言われた事をこなすだけだ。


 カップを持ち上げると、縁にあしらわらたイルカが目に入る。海の生き物をモチーフとしたコースターやソーサーは水族館で売られているもので、人気が高いらしい。遠くでは海鳥の鳴き声が聞こえ、グランヴィアの穏やかな日常が流れている。


「そうっすね、俺たちの出番はせいぜい夜の数時間だけ。あとは平和です」


 ルギーは、ホットドッグの包み紙を無造作に丸め、トレーに置いた。彼の顔には、任務後の解放感がはっきりと見て取れる。


「さて、俺はもう少し寝ます。フィデルさんは?」

 ルギーは水滴のついたグラスを手に立ちあがろうとした。


「私はもう少しここにいる」


「じゃあ最後の便までゆっくり休んでくださいよ!」


 ルギーは、明るい声でそう言い残し、テラス席から軽快な足取りで立ち去った。彼の向かう先は、昨夜の疲れを癒すための睡眠だろう。


 フィデルは、彼を見送ると、視線を外へと戻した。ここからは水族館に向かう楽しそうな人の流れがよく見える。穏やかな潮風を感じながら、変わらない日常の休息を楽しんでいた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!書き溜めていたところはここまでなので、続きはまたのんびり書こうと思います。

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