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海に愛された男  作者:
第一章

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 午前8時。事務所の休憩室を兼ねたミーティングルームは、すでに朝日が差し込み、タイルの床を温め始めていた。その日のシフトに入る社員数名と、非番にもかかわらず、男たちの動きに興味津々で顔を出したルギーの姿があった。フィデルは、いつもの定位置で、腕を組みながら報告を聞いている。


「本日の運行について、連絡事項です」


 ジナが端末の画面を見ながら淡々と読み上げた。彼女は仕事とプライベートをきっちり分けるタイプだった。


「天候には問題ないので、第一便は予定通り定刻に出港します。乗船客は十一名。そして、その中に三名組の一人が参加予定であることを確認しました」


 そう言って壁のホワイトボードに貼られた三人のパスポート写真のうち、一番左のロニールの写真を指さした。


「へえ。わざわざツアーか。律儀な泥棒さんだ」

 ルギーは非番なのに来た甲斐があったとばかりに、意気揚々と答えた。


 ミーティングルームにはわずかな緊張感が走る。社員たちは皆、彼の行末を理解していた。このままツアーに参加するだけならまだしも、もしボスのものに手を出した場合は…。


 フィデルは微動だにしなかった。彼は、この情報を知っていたかのように、ただ静かに頷いた。



 ジナは残りの連絡事項、午後便の団体客の注意点を事務的に読み上げていった。ミーティングが終わると、社員たちはそれぞれの持ち場に戻っていく。フィデルは鍵を持って、潜水艦の準備へと向かう。その後ろをタブレットをスクロールするルギーが追いかけた。


「一人だけみたいですね」

「そりゃ三人来たってしょうがないだろう」


 フィデルは、冷静に答えた。彼の視線は既にハッチの鍵穴に向けられている。


「潜水艦の調査なら一人が紛れ込めば十分だ。他の二人はプランBの準備に取り掛かっている頃じゃないか」


「潜水艦がダメだとわかったら、次は貨物船ですよね。物流に目をつけますから。相変わらず発想が貧困ですよ」


 ルギーは島の地図を表示させた。事務所の反対側には、主に島内のレストランやホテルへと必要品を届ける船の発着場がある。毎日頻繁に行き来がある上、積荷や人員の確認はされない。許可証を持っていれば、自由な通行が認められているのだ。そんなセキュリティのゆるい場所は、誰もが狙い目だと考えるだろう。


「彼らが考えているのは、人間の目と物理的な警備の穴だけだ」


 フィデルは軽く潜水艦の外側を確認したが、特に前日と変わった様子はない。既に長いこと使用しているが、まだまだ美しいボディは健在だった。鍵を差し込んで回した感触もよく手に馴染む。


「頑張ってくださいよ」

 いざ乗り込もうとすると、ルギーが潜水艦をポンポンと叩いた。


「何をだ」

 ロニールが乗っているという事実は、彼の形式的な業務を一つ増やすわけではない。やることは結局のところ変わらないのだ。最初の便と最後の便の操縦、およびペンダントの管理。これだけだ。



「潜水艦の操縦ですよ。盗人を乗せて海底遺跡を回るなんて、毎年やっているとはいえ、なかなか貴重な体験です」

 ルギーは、揶揄するような笑みを浮かべた。


「お前が非番で暇なのはよくわかった」

 フィデルはルギーを一瞥し、冷静に言った。


「俺らに出来るのは奴らがルールを破るのを待つことだけだ。余計なことするなよ」


 良くも悪くも元気が有り余っている男に釘を刺し、潜水艦に乗り込む。操縦席に座ると、ペンダントを取り出し、フックにカチリという音を立てて掛けた。この許可証こそが、ボスの領域を荒らさずに航行できる唯一の保証だった。

 

 彼は、最終的な計器のチェックを終え、無線で船員に告げた。


「問題なし」


 観光用潜水艦としては破格の大きさを持つ、銀色の船体、ネプチューン2号が、朝日を浴びてゆっくりと動き出す。誰もが景色を楽しめるようにと設計された大きな窓は、毎日の整備によってピカピカに磨き上げられている。


 フィデルは、乗客を乗せるために潜水艦を所定の桟橋にぴったりと接岸させ、エンジンを停止した。まだ観光客の姿はない。



 自分専用と化したデッキチェアに戻るフィデルと入れ替わるように、案内人を務めるドルテが船内の確認に入る。


 この短時間でルギーはわざわざ制服に着替えたらしい。可愛らしいシャツだが、この男が着るとより一層チャラさが際立つな、とフィデルは目を細めた。


 午前9時まではあと30分。スマホでポチポチとゲームに熱心なルギーを横目に、フィデルは海を眺めた。トレジャーハンターなどどうでもいいが、しばらくはこの男がうるさそうだ。まぁこれもいつものことかと嘆息する。

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