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怒りの果てに、朝が来る

朝焼けが、村をやわらかく照らしていた。

金色の陽が地平を舐めるように昇るなか、たすくは唐突に叫んだ。


 


「おい! この村のボスに会わせろ!!」


 


突如響いた声に、ポンとタローが目を丸くする。


 


「ぴぃ……(まさかいきなり喧嘩売る気?)」


「バカだポン……」


 


当然、静かな村にその声は響き渡り、あっという間に人々が家々から飛び出してきた。

ざわざわと集まる者たちの前で、たすくは堂々と名乗りを上げる。


 


「俺はたすく! ここにいるオークたちを、今すぐ解放しろ!!」


 


「はぁ?」


「なに言ってんの、こいつ……」


「バカじゃねぇの?」


 


村人たちから冷たい視線が飛び交い、次の瞬間――


 


「うるせぇっ!!」


 


勢いよく投げつけられた木の棒が、綺麗な放物線を描いて――


 


クリーンヒット。


 


「ごふっ!」


 


たすくは頭に直撃を食らい、そのまま見事に地面に突っ伏した。


 


「ぴぃぃ……(まじか)」


「はぁぁ……やっぱりバカだったポン」


 


ポンとタローは、同時に盛大なため息をついた。

そして、目の前の村人たちが笑いながらこちらへ近づいてきたその時――


 


パチン。


 


焚き火の残り火が弾けるような音とともに、倒れていたはずのたすくが――


 


ムクッ と立ち上がった。


 


目元に影を落とし、朝日を背に立つその姿は、まるで神話の英雄のようで。


 


「お前たちは……」


 


低く、深く、村全体に響く声。


 


「仲間を目の前で殺されたことがあるのか?」


 


ざわついていた空気が、ひとつの言葉で凍りついた。


 


「何もしていない。武器も持たない。

ただ、“魔物”というだけで、命を奪われ、喰われる……そんな理不尽が、あっていいわけがない!」


 


静寂の中、たすくの声だけが響く。


 


「尊厳も命も、誰かが勝手に奪っていいものじゃない!!」


 


その言葉に、ポンとタローが息を飲んだ。


 


「……たすく、なんか……かっこいいポン」


「ぴぃ……(主人公感出てる……)」


 


その瞬間、たすくの背後で風が巻き上がる。

朝日が彼のシルエットを際立たせ、村人たちはまるで神を目の当たりにしたかのように、言葉を失った。


 


――それは、いつものたすくではなかった。


まるで“神格化”されたような、別人のような姿だった。


 


そして、静かに火蓋は切って落とされた。








村人たちがたすくを嘲笑う中――


 


その空気は、突如として変わった。


 


立ち上がったたすくから放たれる気配が、

まるで空気を震わせるような、強烈な圧を纏っていた。


 


風が鳴いた。木々がざわめいた。

村人たちは思わず一歩、足を引いた。


 


「よく聞け」


 


たすくが、ゆっくりと前に踏み出す。


 


「誰かを見下すことでしか、

 自分を保てない奴に、命を裁く資格なんかねぇ!!」


 


「――なんだと?」


「……こいつ、本気で言ってるのか……?」


 


「俺は、ただの癒すスキルしかないやつだ。

 戦う力なんてない。剣も、魔法も、持ってねぇ」


 


「それでもなぁ……!!」


 


声が、地を揺らす。


 


「“見過ごせねぇ”って気持ちは、誰より強い!!」


 


ズズン――!!


 


たすくの足元から、淡い光が立ち上った。

それは癒しのスキル……だが今は“怒り”の力に呼応し、眩い金光を放っていた。


 


「今ここにいるのは、“人間”としての、俺の信念だ!!」


 


村人のひとりが棒を持って襲いかかる――


 


しかし。


 


「ぴぃっ!!」


 


「ポン!!」


 


タローが前に飛び出し、尾で相手を弾き飛ばす。

ポンが回転しながら突進し、2人目の男を盛大にぶっ飛ばす!


 


「お前たちは……!!」


 


たすくは叫んだ。


 


「命がなんのためにあるか、思い出せ!!!」


 


その言葉とともに、彼の背からまるで翼のように光が広がった。


 


一瞬、見えた気がした。

金色の癒しの羽根が、彼の背に舞っていたような――


 


「……俺たちは、仲間を守る!!」


 


バァン!!!


 


地を打つ衝撃と共に、ポンが豪快に着地。

その後ろで、タローが雄叫びをあげる。


 


「ぴぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 


――その声に、村人たちは戦慄する。


 


「なんだ……!?なんなんだこの連中は……!?」


「ただの旅人じゃねぇのか……!?」


 


そして、震える村人たちの前に、たすくは堂々と立ちはだかった。


 


「覚えておけ。

 “誰かを虐げて得た平和は、いつか必ず崩れる”」


 


「でも――

 “誰かを守ろうとする想いは、必ず繋がっていく”」


 


その瞬間、空から光が差し込んだ。


 


――それは、神ですら膝を折る、魂の叫びだった。

神格化たすくの背から伸びる、金の光。

それは静かに、しかし確かに、

目の前のオークたちの瞳に火を灯した。


 


「オークよ!!」


たすくの声が村中に響き渡る。


「お前たちは、“奪われる側”でい続けるのか――

 黙って、見下され、殺され、食われるだけの存在でいいのか!!?」


オークたちは、じっとたすくを見つめていた。


その目に浮かぶのは、長く失っていたもの。


 


希望。


 


「声を上げろ!!」


たすくの叫びが、空を揺らす。


「どんなに正しい想いも――

 声にしなきゃ、誰にも届かねぇ!」


 


「声を上げなきゃ、誰にもわかってもらえねぇんだ!!」


 


ひとりのオークが、そっと口を開いた。


「……こわいんだ……」


「俺たちが声を上げたら、また仲間が殺されるかもしれない……」


 


「それでも」


たすくは、一歩前に出た。


「ここに俺たちがいる。ポンも、タローもいる。

 お前たちの“声”を――この世界に叩きつける力が、もうここにある!」


 


「だから、オークよ!」


 


「お前たちも、声を上げろ!!!」


 


……その時だった。


 


「俺たちは、奪われた!」


 


一人のオークが叫んだ。


 


「仲間も、家も、尊厳も全部――

 でも!俺たちは、生きている!!」


 


「怒ってるんだよ!!!」

「悔しいんだよ!!!」

「仲間を返せ!!」

「殺すなああああああああ!!!!!」


 


次々に、オークたちが吠えるように叫び出した。


その声は、天を震わせ、大地を割るかのような激震となって、村を包み込んだ。


 


村人たちが、次々に後ずさる。


「こ、こいつら、こんなに話せたのか……!?」


「いや、違う……これは……!」


 


たすくが微笑んだ。


「――これが、“命の声”だ」






血と煙、嘆きと怒号――

すべてを飲み込んだ、凄絶な戦いだった。


倒れる人間。

吼えるオーク。

焼け落ちる家屋。

散る命、砕ける悲鳴。


やがて、すべてが静寂に包まれた時――


 


たすくは、村の中心で、そっと両手を広げた。


 


「……オークよ」


燃え残る建物の影から、まだ震えるオークたちに向けて声を放つ。


「お前たちの怒りは、痛いほどわかる。

 だが――その怒りは、本当に晴れたか?」


一人の年老いたオークが叫んだ。


 


「晴れるわけねぇだろうがぁあ!!」


その声に、他のオークたちも続いた。


 


「家族を殺され、家を奪われ、

 仲間を食われて、それでも晴れるわけねぇだろ!!」


 


「俺たちは、ただ生きていただけなんだ!!」


 


たすくは、静かに目を伏せた。


「……そうか。やはり、“恨み”では心は救われない」


 


彼はゆっくりと天を仰ぐ。


その手が、空へと伸びる。


 


「ならば、俺がやる。

 ここで終わらせない。奪われた命を――還す」


 


ポンが息を呑んだ。


「……おい、待てポン。たすく……まさかそれ……」


タローも一歩前に出る。


「ぴぃ(なんなんだ……!)」


 


たすくの足元から、金の光が溢れ出す。

天に向けられた手のひらに、風が渦を巻いた。


 


「我、命の調律者なり――」


彼の口から、古の言語が紡がれていく。


「失われし命に安寧を。

 虐げられし魂に帰還を――」


 


空が震え、地が嗚咽する。


 


その瞬間だった。


 


倒れた人間たちの身体が、静かに揺れた。


 


「う、う……?」


「……なんだ、俺は……」


 


そして、同時に。


村の空間が歪み、空気が弾けるように変わる。


 


どこにもいなかったはずのオークたちが――

かつて虐げられ、殺され、消されたはずの仲間たちが――

ひとり、またひとりと村に姿を現した。


 


「……兄ちゃん?」


「父さん!?なんで……!」


「お、お前……生きてるのか……?」


 


オークたちの悲鳴が、涙に変わる。


 


人間たちは、ただ立ち尽くしていた。


 


「これは……なんだ……?」


 


たすくはふらつきながらも、微笑んだ。


 


「これは、“罰”じゃない」


 


「これは、“始まり”だ」


 


「奪うだけじゃ、何も生まれない。

 理解し、向き合い、赦すことでしか、前には進めない」


 


そして――

彼はゆっくりと人間たちを見つめ、静かに右手を上げた。


 


「だが……お前たちは、まだその“重さ”を知らない」


「罪を背負うには早すぎる。

 後悔すら知らないまま、生きてきたのだろう」


 


風が一陣、吹き抜けた。


 


「だから、俺が選ぶ。

 記憶を――すべて消す」


 


人間たちの瞳が、光を失うように虚ろになる。


 


「これは、罰だ。

 そして、願いだ。

 もう一度やり直せ。

 今度こそ、“憎しみ”のない道を選べるように」



 


ポンが慌てて駆け寄る。


「おい!おい、しっかりするポン!」


タローも背を支える。


「ぴぃ!(無理しすぎだ!)」


 


たすくは、青空を見上げながら、そっと言った。


 


「まだ……旅の途中なんでね……」

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