振られて、喰らって、村長です
――まぶたが、ふわりと開いた。
焦げた匂い、磯の香り、どこか賑やかな喧騒。
たすくは、ゆっくりと身を起こした。
「……ここは……?」
周囲には、港町の住民たちが集まっていた。
みんな口々に、目を輝かせて叫ぶ。
「すっげぇ力だったな!!」
「まさかスコップで魔獣倒すとは思わなかったよ!!」
「勇者様かい!?ねぇ、勇者様なのかい!?」
たすくはぼんやりと答えた。
「……いや……俺……村長です……」
「村長ぉぉぉぉぉ!?!?!?」
一同、ザワァッ。
その時、磯のほうからむわっと煙が流れてきた。
たすくは、重い頭をなんとか持ち上げ、海の方を見た――
そこには。
バラバラに解体されたタコ魔獣。
そしてその横で、
モフモフした物体が二匹、何かを焼いて喰っていた。
「……うぇ!?!?!?」
「おぉ、おきたポン?」
ポンが、口の周りをギトギトにしながら振り返る。
「うまいポン!すこぶるジューシー!おかわりあるポン!」
タローも、「ぴぃ(うま……)」と唸りながら、タコ魔獣のゲソを両手で抱えてしゃぶっていた。
「な、なにこれ!?倒したの!?え、俺倒したんじゃなかったの!?」
「いやポン、途中でお前倒れたポン」
「えぇぇぇ!?」
「んで、アイスがなんか目を覚まして、魔力バフかけてくれて、ポンとぴぃでちょっとだけ暴れたポン」
「……アイスは!?」
たすくは慌てて身を乗り出した。
ポンは、その顔をタコ肉でべたべたにしたまま、口を尖らせた。
「……知らんポン」
「え……」
「起きてすぐ、こう言われたポン。
『わたし、イケメンが好きなの』って」
「……」
「ポン、振られたポン。
しかもあの目……完全に“なんで来たの?”って目だったポン……」
「ぴぃ(あの振り方はひどかった)」
タローが小さくつぶやいた。
「だから今、こいつとやけ食いポン!!!!!!!!!」
バリッ!!!
ポン、全力でタコの触手にかぶりついた。
たすくは、静かに目を伏せた。
「お前……恋したな……」
「……ポン」
「惨敗だったな……」
「……ポン」
たすくはゆっくりと立ち上がり、空を見上げた。
「よし……次の旅先では……ポンにもイケメンに変身できる魔道具、探そうぜ」
ポンの目が、一瞬だけキラリと光った。
「それで、アイスの心も盗むポン!!」
「……お前、もうやめとけ」
――その夜。
港の片隅で、たすくはポンとタローと共に、波の音を聞きながら腰を下ろしていた。
「……なあ、ポン」
「なんだポン?」
「……おれ、あの時……なんか急に力みなぎってきて、
スコップでタコ魔獣にブッ刺さったじゃん?」
「うんうん、かっこよかったポン!あれはスコップの奇跡ポン!!」
「いや……あれさ」
たすくはじっと自分の手を見ながら、ぽつりと呟く。
「……あれ、もしかして……俺勇者とかの素質あるんじゃね……?」
「ないポン!あれはマンモスの血を飲んだ効果ポン」
「え、え、え、なにそれ。え、ちょ、え。お前――」
「だってお前、戦力外ポン。少しでも盛らないと役に立たないポン。」
「いやいやいやいや、盛ったとかのレベルじゃねぇよ!!!!」
「飲んだのはお前ポン。
飲ませたのはポン。
因果応報ポン。」
「サラッとやべぇこと言ってんな!!!」
ポンはぷいっとそっぽを向いて、モフ尻をふりふりさせながら言った。
「“ポンの計画はすべて織り込み済み”ポン。」
「確信犯かよ……」
「当たり前ポン。わしをなめるとこうなるポン。」
「ぴぃ(つまりあれ、ドーピング……)」
たすくは、頭を抱えながらため息をついた。
「……くそ……
そんなんだったら、もっと真剣にキメ顔しとけばよかった……!!」
「大丈夫ポン。顔より鼻血の量の方が印象に残ってるポン」
「黙れくそタヌキィィィィィィ!!!!」
夜空に響くたすくの絶叫と、
モフのどこ吹く風な涼しい声が、港の静寂を揺らした。
――こうして、港町の危機は去った。
非戦闘員は鼻血を出し、恋は砕け、魔獣は焼かれ、
スコップは英雄の証となった。
たすくの村長としての旅路は、まだ――続く。




