たすくレジ係
次の日――
たすくは、散々サクに説教された結果、モールへと“出勤”させられていた。
「いらっしゃいませ〜……」
やる気ゼロの声で挨拶しながら、ドマじい開発レジを打つたすく。
「きゅうりの苗5本とー」
「トマトの苗2本、あっ、これ大玉か〜」
「ピーマンも買っちゃおうかな〜」
活気づくDIY王都支部の苗売り場。
レジには次々と人が並び、牛を横付けする農家や、家族連れの客でにぎわっていた。
「……ふぅ」
たすくは、レジの隙間から遠くを見た。
グリーンハウスの向こう、ゆるやかな丘の上には――王都で飼育している牛がいる。
「……ヤーさん……今、何してんだろな……」
苗のバーコードをピッと鳴らしながら、たすくは大きくため息をついた。
「……自由って、どこ行ったんだろ……」
「聞こえてますからね」
背後から冷たい声がした。
振り向くと、サクが完全に腕組み&鬼の形相で立っていた。
しかも“サク監視用仮設デスク”付きで。
「たすくさん、バーコードの音に“悲しみ”が混ざってるんですよ」
「レジ打ちに魂込めないと!」
「いや無理だろ!? 野菜の苗に魂込めたら実る前に茎が折れちゃうわ!!」
「現に俺、トマトに話しかけてたんですけど?」
「重症すぎんだろお前!!」
ふたりのやりとりに、近くでレジ待ちしていた客がクスクスと笑い出す。
その輪の中に、ふくの姿もあった。
「まぁまぁ、たすくさん。文句言いながら働いてる姿も、それはそれでいいじゃない」
「……はぁ、じゃあ俺が働く理由は、“人々を笑顔にするため”ってことで……」
「“自分を納得させるため”だろ」
ジローが脇からスッと突っ込んできて、ピーマンの苗を持って去っていった。
この日もまた、DIY王都支部は、笑いと怒号と野菜の香りに包まれていた。
⸻
その日の夜。
一日働いた疲れを引きずりながら、たすくは村の縁側に座っていた。
隣では、まごじいが湯呑みを片手に、ぽつぽつと星空を眺めている。
「はぁぁぁ……なんで俺、レジ打ってたんだろ……」
たすくが全力でため息をつく。
「おぉ? サクに怒られたのか」
「怒られたどころか、監視デスク設置されてたからな!?
あいつ絶対、視線で人を追い詰めるスキル持ってる……」
まごじいはくくっと笑ったあと、ゆっくりと口を開いた。
「まぁ、それぞれの役目があるってことじゃ。
畑や家畜だけじゃあ、腹は満たせても心までは満たせん。
わしらは“村”の役目を果たしとる。じゃが、そろそろ“外”の風も取り込んでもいいとは思う」
「……外の風?」
「そうだ。今は山と畑のもんばっかじゃろ。
昔はのぉ、季節になったら“海の街”から魚を仕入れて、祭りをやったもんじゃ」
たすくの目がキラリと光る。
「……魚!?」
「魚はええぞ。脂ののったブリに、ぷりぷりのイカ、んで炭火で焼いたサバの香りは……」
「――おっ、それいいじゃん!!」
たすくが急に立ち上がった。
「決めた!オレ、ちょっと“海の街”に視察行ってくるわ!!
んで魚、仕入れてくる!!まごじい明日からモーさんたちと鶏達のお世話頼むわ」
「……は?」
「そうと決まれば明日の朝イチで出発だな〜!
やば、海鮮丼とか絶対うまい……!寿司いける!? 塩辛とかある!? 干物も!? あ〜やばっ!米持参しようかなーー」
たすくは一人でテンションを爆上げさせながら、そのまま家に引っ込んで荷造りを始めてしまった。
残されたまごじいは、湯呑みを置いてぽつりと呟いた。
「……わしゃ、魚の話をしとったんじゃない。
“心に風を通す”ちゅう比喩じゃったのに……」
けれどその口元は、どこか嬉しそうにほころんでいた。




