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俺の庭だ

モール開店初日の熱気が、少し落ち着いてきた午後。

ホームセンター棟の中では、今日から新たな仕事を始める人々の声が響いていた。


 


たすくもそのひとりだった。

「DIY王都支部」と掲げられたプレートの下、制服のエプロンを身に着け、商品の棚を整えている。



「すみません、鍵がまわりにくくて……何かいいものありますかね?」


 


そう声をかけられた瞬間、たすくの目がすっと鋭くなる。


 


「鍵穴が固い感じですか? 動かないわけじゃなくて?」


 


「え、えぇ、まぁ……少し引っかかるというか」


 


たすくは頷く。

そして――迷いなく、棚から一本のスプレー缶を取り出した。


 


「こちらですね。鍵穴専用のパウダースプレー。

 オイル系じゃないので、ホコリが中にたまりにくいんですよ」


 


「へぇ……詳しいんですね」


 


たすくはニッと笑った。


 


「昔、ホームセンターで働いてたんです。

 こっち来る前の世界でね。

 だから、こういうのは……まぁ、俺の庭ですわ」


 


その言葉に、客が驚いたように笑う。


 


「なるほど、手際がいいと思ったら!」


 


「鍵穴は意外と繊細ですからね。

 無理にオイル入れると逆に固まってくるんで、

 こういうパウダー系をシュッと軽く、がコツです。

 あとは、布で周囲を拭いてから使うと、長持ちしますよ」


 


「へぇ〜……ありがとね。助かるわぁ」


 


「いつでもどうぞ。俺、元・プロなんで」


 


そう言って、たすくは棚を整えながら小さく呟いた。


 


「……懐かしいな、この感じ。やっぱり、こういうの好きだったわ」


 


ガチャ、とドマじぃが後ろから顔を出す。


 


「たすくぅ! 棚板切ったけど長すぎたわい!」

「いや、それスケールの数字逆じゃない!? 下からじゃなくて上から測ったでしょ!?」


 


「うるさい!こちとら目が遠いんじゃ!」


 


今日も、DIY王都支部はにぎやかだ。

だけど、たすくにとっては――


 


ここはまぎれもなく、“帰ってきた場所”だった。






モールの営業を終えた夜。

あたりは静まり返り、灯りの落ちた巨大施設が、星空の下に浮かび上がっていた。


サクは、その前で立ち止まり、しばらく無言で建物を見上げていた。


 


「……たくさんの方たちに来ていただいて、本当に……嬉しいですね」


 


その横で、たすくが腕を組み、ポツリと呟く。


 


「……お前を、“王都再建事業”の総責任者に任命するわ」


 


サクは、驚いたようにたすくを見た。


 


「……い、いやいや、それはダメですよ。

 俺の血には、民を傷つけてきた王族の血が流れているんです。

 そんな俺が……前に立つ資格なんて……」


 


けれど、たすくの声は鋭く、はっきりとしていた。


 


「そんなの関係ねぇだろ」


 


「……え?」


 


「血とか、過去とか、関係ねぇよ。

 今の“お前”を見て、俺はそう判断したんだ。

 ここに立って、王都のために動いてる“今のお前”が、総責任者に一番ふさわしいってな」


 


言葉に詰まるサク。


 


「でも……」


 


「でももクソもねぇ。

 自分の過去と向き合って、それでも前に進んでるやつにしか、任せられねぇんだよ。

 ……俺は、そういうやつと一緒にやりてぇんだ」


 


その言葉に、サクは小さく息を呑んだ。


 


しばらくの沈黙のあと――


 


「……責任、重いですよ?」


 


「知ってる。だから任せるんだよ」


 


サクは、小さく笑って、再びモールを見上げた。


 


夜風が、ふたりの間をやさしく吹き抜けていった。


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