はつえばあちゃん
王都再建が、着々と進む中――
その日、たすくは村でいちばん年を重ねた小さなおばあちゃん、
はつえばあちゃんの家へと呼び出されていた。
「こんにちは!」
玄関を開けると、奥からゆっくりと返事が返る。
「たすくちゃん、いらっしゃい」
「寒かったでしょう?さ、上がっておあがり」
ちゃぶ台の上には、既に湯気の立つ湯呑と、
焼き芋が置かれていた。
お茶を出してくれたはつえばあちゃんの手は、
少し震えていた。
前より、肩も背中も、すこし丸くなっていた。
あんなに元気に畑を歩いていたその足も、
今では小さな杖に寄り添っている。
「どうしたんですか? 何かあったんですか?」
たすくが尋ねると、
はつえばあちゃんは、にこっと笑って言った。
「んにゃ。
ただ、あんたのお顔が、見たくなったのよ」
たすくは少し照れたように笑った。
けれどそのあとに続いた言葉に、言葉が詰まった。
「それより最近、冷えるでしょう?
だからね――
たすくちゃんに、セーターでも編もうかと思って」
ぽすっ、と小さなかごを取り出す。
そこには毛糸玉と、まだ始まったばかりの編みかけのセーター。
「えっ、でも……無理しないでください。手も、震えてるし……」
「いいの。震えるから、時間がかかるだけ」
「それでも、あたしの時間で編めるうちは……やりたいのよ」
「あなた、すっかり立派な村長さんだもんね。
寒い外で頑張ってるあんたを見てると、
“着せてやりたい”って、思うんだよ」
たすくは、一瞬言葉を失った。
そして、ゆっくり、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。
でも、無理は……絶対しないでくださいね」
「わかってるよ。ばあさんの意地よ」
セーターの色は、やさしい生成り色だった。
どこか、春の畑の匂いがするような、懐かしい色だった。
はつえばあちゃんの手は震えていたけれど、
その編み目は、まるでひと針ひと針に願いを込めるように、まっすぐだった。
それは、服じゃない。
“生きてるぬくもり”だった。
王都がどんなに再建されようと、
この村のぬくもりは、きっとずっと変わらない。
それから、たすくは時折、はつえばあちゃんの家を訪ねるようになった。
小さな木戸を開けると、どこか甘くて懐かしい、干し柿のような匂いがする。
居間には湯気のたつ番茶と、手作りの煮豆。
火鉢の前に座ったはつえばあちゃんが、いつものように「いらっしゃい」と、優しい声で迎えてくれる。
「今日は、あったかいねえ」
「うん、でも明日はまた雪になるかもって言ってましたよ」
たすくが持ってきたお菓子を分け合いながら、二人はぽつぽつと話をする。
はつえばあちゃんは昔の村の話を。
たすくは、王都の再建や、モールやホームセンターのことを。
「春には完成する予定なんです」
「まぁまぁ、それは楽しみだこと……行ってみたいねぇ」
しわだらけの手を、膝の上でぎゅっと握りしめて、はつえばあちゃんは笑った。
それは、子どものように無邪気で、やさしい笑顔だった。
そしてたすくは、また約束する。
「できたら、絶対一緒に行きましょうね」
「うんうん、楽しみにしてるよ……セーターも、そのときまでには編み上げたいねぇ」
だけど――
そんな日は、はつえばあちゃんには訪れなかった。




