燃える王都と、王子の咆哮
城のバルコニーから見下ろす王都は――
赤かった。
まるで地獄そのものだった。
火の手は風に煽られ、屋根を伝い、通りを飲み込み、家々を炎の波で押し流していく。
悲鳴が、遠くから聞こえる。
人々が、逃げている。
我先にと走り、転び、子どもを抱え、老いた者を引きずって。
サクは、その光景から目を離せなかった。
手すりを握る指先に、力がこもる。
「……どうして、こうなっている」
背後から現れた兵士が、顔色を曇らせながら答えた。
「……陛下のご命令です。
囚人が抜けたという抜け穴に――火を放てと……」
「……ふざけるな」
低い声が、サクの喉から漏れた。
「これが……人を統べる者のすることか……!?」
炎に照らされた街は、悲鳴と泣き声に包まれている。
あれは、サクが幼いころに駆け回った路地だ。
市場のパン屋。遊び場だった広場。
全部、炎の中に沈んでいく。
「消火活動はどうなっている。なぜ、兵がここにいる!? なぜ誰も動いていない!!」
兵士は、目を伏せたまま震える声で言った。
「……陛下のご命令で……国民など、捨ておけと……」
「くそがああああああああああああああああ!!!!!!」
サクは叫んだ。
叫びと同時に、拳で手すりを殴りつける。
石の装飾がひび割れ、指から血がにじんだ。
「民を見捨てて、何が王だ!!」
「たすくさんが命がけで救おうとしていた人たちを……!こんな形で……!!」
その姿に、かつての“へらへらと笑っていたアホ王子”の面影は、微塵もなかった。
兵士が、恐る恐る言葉を漏らす。
「……サク殿下……そのお言葉は……反逆の罪に……」
「構わん」
サクは振り返らずに言った。
「それでも……俺は、命を見捨てたくない」
──この瞬間、サクという男の中に、
ひとつの“決意”が、確かに灯った。
そしてそれは、王という名を持つ暴君に対して、
「民のために立つ王子」への第一歩だった。




