火の手、そして後戻りできないもの
地上の風は、夜明け前の湿気をわずかに含んでいた。
暗い抜け穴を抜け、たすくはひざに手をついて呼吸を整える。
「……出た……か」
すぐ後ろから、地の精霊がぬぼっと顔を出す。
干し芋をぽりぽりと噛みながら、のんびりと空を見上げた。
「いや〜〜〜〜王都の土、重かったわ〜。肩バキバキやでほんま」
「……で?たすく、お前さんどうするん?」
たすくは、立ち上がって空を見上げた。
「子どもたち、迎えに行く。隠れ家に置いてきたんだ。すぐ戻る」
「アホか、目立つし危ないに決まってるやろ」
「でも――」
「もう向こう、気づいてる頃やで。
今動いたら、逆に巻き込む。とりあえず村に戻るんや」
地の精霊は、ぽりぽりと干し芋を噛みながら、やんわりと首を振った。
たすくは、拳を握りしめたまま、空を見つめていた。
でも、そのときだった。
ふと、何かが視界の端に引っかかった。
――黒煙。
もくもくと、濃い煙が、王都の方向から立ち上っていた。
「……え?」
最初は遠くに見えていた煙が、風に乗って形を変えながら空を汚していく。
たすくは目を見開いた。
「ちょ、待って……あれ……煙……?」
「せやなぁ、火事やな」
「……火事!? やばくない!?」
「乾燥しとるし、木造建築多いやろ王都。あんなん、燃えたら一瞬や」
「たぶん、火ぃ放たれたんやな。穴の中に。王様、キレたんやろな〜。ハハ」
たすくは言葉を失ったまま、煙の向こうを見つめた。
子どもたちのことが、頭をよぎる。
サクのことも。
(……なんで……なんで火なんて――)
地の精霊が、ぽん、とたすくの背中を軽く叩いた。
「焦ってもしゃーない。
お前が“家族を守りたい”言うなら、まず生きて帰ることや」
たすくは、唇を噛みしめながら、小さく頷いた。
風は、まだ黒煙の匂いを運んでくる。
──王都が、燃えている。
それは、国が壊れ始めた音だった。




