夜の遊具と、たすくの本音
夜の村は、静かだった。
星空の下、山の中腹にある広場では――
たすくが、ひとり、木槌を握っていた。
泥だらけの作業着。
顔にも腕にも、土と汗の跡がくっきり残っている。
トン。トン。
整った団地のすぐそばに、彼は――手作りのブランコと滑り台を作っていた。
そこに、ひとつの影が近づいた。
「……こんな時間に、なにしてんだよ」
ユイラだった。
たすくは、トンと釘を打ち込んでから顔を上げた。
「遊具」
「見ればわかる」
「……子どもが、増えるだろ。
そのうち、走り回る奴らが出てくる。
だったら、笑える場所、用意しとかなきゃなって」
ユイラが、じっとその姿を見つめる。
泥にまみれて、ボロボロの靴。
でも、どこか楽しそうに、誇らしげに、
木を削っている、その背中。
ユイラは、ぽつりと呟いた。
「……なんで、お前は他人のために、そんなに頑張れるんだよ」
トン、と音が止まる。
たすくは、少しだけ手を止めて、夜空を仰いだ。
「……おれ、家族いねーんだよ」
その声は、いつになく静かだった。
「物心ついた頃には、施設育ちでさ。
血の繋がった人間なんか、ひとりも知らねぇ。
誰が父親で、誰が母親だったかも、知らねぇ」
少し、笑った。
けれどその笑みは、どこか痛かった。
「でもさ。今は違う。
この村には、タローがいて、精霊がいて、ジローがいて、まごじぃがいて、
ドマじぃがいて、ふくさんがいて、村のじいちゃんばあちゃん……ユイラ、お前もいて」
たすくは、ユイラのほうを見た。
真正面から。
「……お前らが、俺の家族なんだよ。」
その言葉に、ユイラは、言葉を失った。
「家族には、幸せになってほしいだろ?」
トン、と音が再び響く。
「腹いっぱい飯食って、ぐっすり眠って、時々バカみたいに笑ってさ――
帰ってきて、『ただいま』って言える場所。
俺は、それを作りたいだけなんだよ」
ユイラは、何も言わなかった。
ただ――その横顔を、夜風がそっとなでていた。
そして、ブランコの横に座ったユイラが、ぼそっと呟いた。
「……馬鹿みたいに、優しいな。お前」
たすくは笑う。
「知ってるよ」
ふたりの笑い声が、闇の中で小さく混ざる。
村の夜は、静かに。けれど、どこまでもあたたかく、流れていった。
――つづく。




