護様のうた
かつて、護竜はひとりの人間の女性と出会った。
彼女は歌が上手で、誰も知らない山奥で傷ついた護竜を、ただ“歌”だけで癒した。
争いの世にあって、彼女は唯一、竜の姿を恐れなかった。
――そして、二人の間には、五人の子どもが生まれた。
その子たちは、人の言葉と龍の心を持ち、背には小さな翼が生えていた。
彼らは無邪気に歌を歌い、羽ばたき、笑い合い――
小さな山の村には、やさしい風が吹いていた。
やがて、母である人間の女性が静かにこの世を去っても、
護竜はずっと、子どもたちとその暮らしを守り続けた。
そして時が流れ――
五人の子どもたちは、それぞれ人間と結ばれ、
その子どもたちもまた人間と交わり、
代を重ねるごとに、ゆっくりと、静かに人が増えていった。
そうして出来たのが、“護竜の子孫たち”の村。
人口はいつしか、百人近くになっていた。
だが――
「龍と人間のハーフなど、いつか暴走する」
「その力は強すぎる。危険だ」
――そう言い出した者たちがいた。
ある日、誰にも気づかれぬように、村の周囲に“毒の香”が放たれた。
それは龍の血を引く者にのみ作用する、
嗅げば眠りに落ちる“静寂の毒”。
村の子どもも、大人も、皆眠ってしまった。
目覚めることは、もうなかった。
護竜は――
そのとき、命の力すべてを使い果たして、
“炎”となって村を包み、その子孫たちを守り抜いた。
その後、彼の姿を見た者は、誰もいない。
……それから幾百年。
護竜の子孫たちはもう、いないものと思われていた。
けれど――
伝説は、まだ終わってなどいなかった。
護竜は、再び目覚める。
そして、その血を受け継ぐ者たちもまた――
“あの村”へと、導かれていくことになる。
***
火が揺れていた。
それは精霊たちのまとう魔力でも、鍋の底でもない。
記憶の奥にある、“遠い日の火”――
火の精霊が、ゆっくりと口を開いた。
「……あれは、まだ人も龍も、うまく共に生きられへんかった頃や」
風の精霊が懐かしむように目を細めた。
「龍の力を欲しがった人間たちが、戦に明け暮れてた。
あちこちで、“龍狩り”ってのが始まってな……」
地の精霊は静かに頷いた。
「……護様も、追われとった。
傷だらけで、力も尽きて……。最後は、誰も来んような山奥に、逃げるしかなかった」
そのとき、水の精霊がぽつりと続けた。
「そこで……ひとりの女の子と、出会ったの」
火の精霊が微笑む。
「歌が上手な子やったよ……。
山奥の小屋で、ひとり暮らしとった薬師の娘。
その歌には、不思議な力があってな――」
「傷ついた龍を、言葉じゃなく、“歌”で癒したんや」
風がやさしく吹き、広場の木々がそよぐ。
「最初は、護様も牙を剥いた。
でもな、その子、ぜんっぜん怖がらんかったんや」
水の精霊がそっと語る。
「“あなたの目、優しいね”って、言ったんだって。
――“眠っていいよ。私がそばにいる”って」
たすくは、口を開けたままじっと聞いていた。
横では、タローが小さく震えている。
ジローが小声で言う。
「……お前、覚えてんのか? それ」
タローは「ぴ……」とだけ鳴き、そっと目を伏せた。
地の精霊が、静かに語り続けた。
「しばらくして、護様は人の姿をとった。
そして、その子と、ひとつ屋根の下で暮らすようになった。
笑って、食べて、歌って、……まるで、普通の家族みたいやった」
火の精霊がふっと笑う。
「まぁ、そんで……子どもが生まれたわけや」
たすく「やっぱやってたんかーい!!!」
全精霊「だまらっしゃい!!!」
――つづく。




