村長に手ェ出したら、精霊が黙ってない件
その朝、村にいつもと違う風が吹いていた。
風の精霊が、くるくると空を舞いながら眉をひそめる。
「なんや……嫌な気配がするわ……。
空気がピリピリしとる……」
地の精霊は畑の土を撫でながらも、口を固く結んだ。
「……来るな。なんか来る……でかいのが」
火の精霊は腰に手を当て、あたりを見回して唸る。
「ふん……来いっちゅーんなら、受けて立ったるわい!」
水の精霊だけはそわそわと水瓶を抱えたまま、たすくの後ろに隠れていた。
「……ちょっと、村長の背中……ぬくいから……避難……」
そんな中――
当の本人、たすくは呑気に鼻歌まじりで畑を耕していた。
「らんらら〜ん♪ 芽が出て〜 今日もご機嫌〜俺もご機嫌だ〜」
その瞬間だった。
――ゴッ!!!
頬をかすめて、火の玉が一直線に飛び抜ける。
土が弾け、たすくの肩の上にあった鍬が吹き飛ぶ。
「うぇっ!?」
驚いて顔を上げると、目の前の空に――
3人の男女が、悠然と宙に浮かんでいた。
まるで絵画から抜け出したかのような美貌。
しかし、その目に浮かぶのは――確かな殺気。
「ここが……護様の、居場所……」
「信じられぬ。あの方が、こんな場所に……」
「……殺す。嘘なら、即、殺す」
地鳴りのような気配が、広場を満たす。
たすくは、ぽかんと空を見上げてつぶやいた。
「……うわぁ、いいなぁ。空飛んでる……。俺も飛びてぇなぁ……」
ジローがすぐそばで、スコップ片手に盛大にため息をつく。
「……おい、村長。
あれ、見て“飛んでる”としか思えねぇの、お前くらいだぞ」
次の瞬間――
「おいッ!!!アンタたちッッッ!!!!!」
火の精霊が、まさにブチギレモードで空に跳ね上がった。
「この村の村長に、なにしてくれてんのよおおおおおお!!!!!」
風、地、水、そして火の精霊が、たすくの周囲に集結する。
その背には風が渦巻き、土が震え、水が舞い、炎が燃え上がる。
「うちの“村長”に手ぇ出して無事で済む思たら、あかんよ?」
「この地は、私たち精霊が守っとるん!手出したら痛い目みるわよ」
「僕たち……怒ったら……たぶん怖いよ……?」
空中の3人――護竜の子孫たちが、ふと気づく。
村の気配が、“ただの村”じゃない。
そして、あのぽけっとした青年の背後に――精霊の気が集まっている。
「……まさか……この男が…1番えらいやつ…?」
精鋭3人と、村と、護竜と――
静かな畑の上空で、にわかに緊張が走っていた。
――つづく。




